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大改革時代に向けて

2020.6.19

AIが発達しても決断し行動するのは人間 ツールにとらわれない本質の学びを
金蘭千里中学校・高等学校 校長 大中章 先生

大中章 先生
金蘭千里中学校・高等学校 校長
同校卒業生でもあり、新卒以来、現在まで36年間金蘭千里一筋。「PLAN2020」の策定時には、教頭として企画室とともにプランの取りまとめに尽力。 2018年より現職。教員同士の切磋琢磨や生徒アンケートなどで授業改革と生徒の学力向上に力を入れる。毎朝、校舎前で生徒を出迎えることを日課としている。

金蘭千里中学校・高等学校
http://www.kinransenri.ed.jp/
吹田市藤白台5-25-2 TEL 06-6872-0263

 

2020年度の小学校を先頭に、2021年度中学校、2022年度高校で新しい学習指導要領での学びがスタートします。学校はどう変わっていくのでしょうか? 2020年度を目指して「PLAN2020」という学校全般の改革に取り組んできた金蘭千里中学校・高等学校。一連の改革の完成年度を迎え、大中章校長にその全貌をお聞きしました。

 

PLAN2020の完成

本校では、創立50周年となる2014年から創立以来の大改革「PLAN2020」に取り組んできました。クラブ、行事、新制服など、学校全般にわたる改革で、学習面では表現力の指導や、ICTツールの導入、探求型学習にも力を入れました。

一方で、本校の良き伝統である、毎朝の20分テストと1クラス30人程度の少人数による個別対応は、教育の柱として変えることなく続けています。

この6年間の改革で感じたのは、使用するツールや表現のテクニックなどは年々新しくなっても、教育の大切な部分は変わらないということです。今後、AIの発達により機械にとって代わられる仕事は増えていくでしょう。しかし、知識を起点として、その意味を理解し、どのように考え、判断し、どのように表現・行動するのかは、人間の役割であり続けます。

そこで、前提となる知識や思考力を毎朝のテストで確実なものとし、「PLAN2020」で導入した新たな取り組みで、表現力や主体性、協働性といった今後求められる力を身につけていきます。特に、グループで協働して、主体的に動き、自らをアピールする力は、これまでの学校教育ではあまり重視されてこなかったところです。

 

参加1年目でいきなり全国大会

表現力を伸ばす取り組みとして「演劇ワークショップ」を取り入れ、国語表現では積極的に学外発表に参加しました。

「演劇ワークショップ」は、プロの劇団の俳優の協力のもと、「ことば」「からだ」を用いた「読む・書く・聞く・話す」に止まらない表現力を学びます。例えば、人は同じ言葉を発したとしても、表情が異なれば、相手への伝わり方も違うものになります。このような表現の幅広さ、奥深さをプロの実演から学びます。

週1時間の国語表現では、2018年度から参加しているクエストカップに向け、中1は「社会課題探究コース」、中2は「進路探究コース」、中3は「企業探究コース」と各学年に応じた探究学習に取り組んだり、グランフロント大阪で開催されるナレッジイノベーションアワード「未来の仕事を考える」での発表に向けた準備を行ったりしています。

国語表現

 

クエストカップでは、2019年の大会(参加1年目)でいきなり全国大会出場を果たしました。校内の選考を勝ち抜いた「doll phone」というアイデアが優秀賞を受賞したのです。人形とスマートフォンを融合させて、幼児が一人遊びできるというもので、忙しい保護者の育児を支援するアイデアです。

クエストカップでのプレゼンテーション

 

ナレッジイノベーションアワードには、5年ほど前から参加しています。毎年のように入賞を果たしていて、グランプリを受賞した年もあります。国語表現の時間だけではなく、グループによっては放課後の時間も使って、考えたり、ディスカッションしたり、と生徒の主体的な学びが活発になりました。

このように、6年間をかけて学校のあるべき姿を模索してきたので、今後、指導要領がどのように変わっても、大学入試にどんな問題が出されるようになっても、本校では慌てて対応する必要がありません。

ナレッジイノベーションアワード グランプリ受賞

 

いち早くオンライン授業を展開

ICT環境の整備については、数年来の研究を重ねて、2019年6月に、高2以下の全生徒に一人一台のiPadを導入しました。「ロイロノート」を活用して、一つのテーマについて教員が生徒に意見や考えを求め、その答えをクラス全員で瞬時に共有できるなど、授業の可能性が大きく広がりました。また、プレゼンテーションのツールなど、表現や協働のためのアプリを生徒がいつでも自由に使えるようになったことも学びの環境を大きく変えました。加えて、英語では「English Central」というwebサービスを利用して、生きた英語の自学自習ができる環境を整えました。

一人一台の環境を整備していたことで、3月以来の休校要請期間にも、いち早くオンライン授業を実施することができました。「ロイロノート」での課題の配布・回収と「You Tube」での動画配信による解説とを組み合わせたり、「Zoom」での双方向型授業をしたり、先生方がそれぞれ工夫をして、時間割通りに授業を開講しました。新入生に関しては、ご家庭のPCやスマートフォンを使ってのオンライン授業となりました。

ICTツールの活用は授業内容に応じて様々でしたが、必ず行うことにしたのは、毎日、朝礼、終礼を含めて全授業で出欠をとることでした。これは休校期間中にも、規則正しい生活習慣が大切だと考えたからです。

この期間、先生方も在宅での授業を基本として、生徒の学習が滞らないことと感染拡大防止とを優先しました。

 

タブレットだけで新しい学びができるわけではない

社会の変化に合わせて教育も変わりつつありますが、間違えてはいけないのは「グローバル教育=英語を話すこと」ではなく、「ICT教育=タブレットを持たせること」でもないということです。これからの時代に柔軟に対応するために重要なことは、指導要領にもある「学力の三要素」(知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性)を基礎的な学力として身につけて、それをベースとして、自分で考え、判断し、行動する力を伸ばしていくことです。英語力もタブレットを使うことも、そのためのツールであり、何を伝えるのか、どういうことを実現するために利用するのか、が後回しになってはいけません。

志望校を選ぶ際には、これらのことを踏まえて、どのような理念のもとでそれぞれの取り組みを行っているのかをよく見極めることが重要になると思います。

 

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