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大改革時代に向けて

2021.4.23

体験から得た自信と探究心で世界へ羽ばたく 「アクティブ シチズン」を育てます
奈良市立一条高等学校 校長 錦秀知先生

錦 秀知 先生
奈良市立一条高等学校 校長
藤原和博校長時代の副校長として、同校の教育改革を主導。2020年より現職。明確なビジョンに基づいて、ICTの教育活用や授業への探究学習の導入を進める。

奈良市立一条高等学校
http://www.naracity.ed.jp/ichijou-h/
奈良市法華寺町1351 TEL 0742-33-7075

附属中学校(2022年4月開設)
7月 説明会(予定)
詳細は奈良市教育委員会のwebサイトにて
https://www.city.nara.lg.jp/site/kyouiku/list26-2384.html

 

AI時代にも大切な人と人の関係

 本校は奈良市立の唯一の高校で、学校運営の自由度が高いという強みがあります。2016年度から17年度に藤原和博先生を校長に招くなど、先進的な教育に挑戦してきました。

 2016年に「スーパースマートスクール(SSS)」を提唱して、校内無線LANを整備し、生徒が持っているスマートフォンを授業で活用するBYOD※1に挑戦しました。現在は、クロームブックを一人一台貸与し、それぞれの特徴を生かしてスマホと使い分けています。PCは学校内だけではなく、自宅に持ち帰っても学習に使います。

 ICTの教育活用には多くのメリットがあります。例えばクラス40人の意見を瞬時に画面に映し出すことができます。以前であれば、紙に書いたものを集めて印刷し、次の授業で配っていました。

 予期せぬ効果もありました。意見や思いがあっても、なかなか手を挙げられなかった生徒の意見にスポットライトを当てられることです。これまで発言をためらっていた生徒にとって、自分の意見に自信をもつ機会になっています。

 ただ、間違えてはいけないのは、ICT自体を目的としてはいけません。SSSの「スーパー」は何のためなのか、を考えないといけません。

 ICTによって事務処理などが簡略化されることで時間が生み出せます。そうして稼いだ時間は、教師と生徒が向き合う時間に使っていきたいと考えています。いかにAIが発達しても、最終的には、人は人を見て育ち、人の中で磨き上げられるものだと思います。

※1 BYOD:Bring Your Own Deviceの略。生徒個人が所有するデバイスを授業用のコンピューターとして使う方法。導入が容易で生徒も使い方に慣れている点がメリット。

 

新時代の指針となるビジョン

 本校では、学校のビジョンとして「アクティブ シチズンであり、自由に生きることができる『個人』の育成」を掲げています。

 「アクティブ シチズン」とは「利己心をもたないで、責任感や公共精神をもって社会参加する能力と態度を備えた市民」のことです。また、自由に生きるためには、社会を見渡し、自身の責任を自覚できる高度な教養を身につけて、継続した努力や、人との協働で成し遂げたことなどを通じて自信をもつことが大切です。同じ自信でも、単に競争の結果、人と比べて得た自信は、自分よりも上位の人の前で簡単に崩れるものです。

 そのための教育目標として、附属中学校では次の3つの生徒像を「育てたい生徒」とします。

・本物に触れ、自分のやりたい事をとことん探究する生徒
・奈良から世界へ羽ばたく志をもった生徒
・豊かな体験活動により、人間性を高めた生徒

 これらを実現するため、現在高校で推進している教科融合型のArts STEM教育や探究学習を普段の授業でも積極的に導入します。探究的な学びに使えるメソッドやアイデアをアーカイブにして全教員で共有、各教員に自分のものとして身につけてもらい、それぞれの教科で応用します。

 世界へ羽ばたく取り組みとして現在高校で実施している「エンパワーメントプログラム」を中学生でも実施する予定です。希望者を対象に5日間、海外の大学生や大学院生※2とともにオールイングリッシュの環境で、議論したりプレゼンテーションしたりする取り組みです。

 参加した生徒に聞くと「自分の言いたいことを英語で言えるようになった」など、とても好評なプログラムです。

エンパワーメントプログラム

 外国語科(専門学科)で培った文化は、英語教育での大きなアドバンテージになっています。英語を敷居の高いものではなく、日常的なコミュニケーションツールとして身近に感じる環境です。中高の6年間、この環境で過ごすことで、臆せず英語をツールとして使っていく感覚が身につくはずです。

※2 2020年度は新型コロナの影響で、国内の大学に来ている留学生が参加

 

新しい学びのための環境整備

 新しい学びの環境整備も進めています。2020年に竣工した隈研吾氏設計のICHIJO HALLは、探究学習のポスターセッションで活躍するなど、幅広い学びに対応した新時代の講堂です。また、2023年度に完成する予定の新校舎には、コモンズルームという探究学習を想定した教室を設けます。この教室は、新校舎の2階から4階までを上下に階段でつなげた広い空間で、どのフロアや教室からもアクセスがしやすく、様々な教科で使うことが可能です。

ICHIJO HALL

 附属中学校からの入学者は、中高6年間の探究的な学習で、それぞれの興味があるテーマに取り組み、学ぶ楽しさに触れて、より深く学びたいという強い意志を持ち、さらに次の学びに向かう、という良いスパイラルを体験して自信に繋げていきます。

 そして、このスパイラルが合わさると大きなパワーになります。難関大学の総合型選抜(旧AO入試)の水準に十分通用する卒業生を多く輩出したいと考えています。

 

どんな子どもにも好きなことがある

 学び方は大きく変わりつつあります。これまで、教員というのは、あらかじめガイドラインを作って、生徒が失敗しないように誘導しがちでした。しかし、これでは、生徒の主体性は育ちません。そこで「こうしなさい」ではなく「どうしたらいいだろう?」と問いかけて、生徒と一緒に考える教員でありたいと考えています。

 家庭でも同じことが言えます。保護者が全てお膳立てするのではなく、子ども自身の意思を表出させることが重要です。間違っているように思えても、その時点、その年齢なりの意思を言葉にさせることが大切です。そうすることで、子どもは自分の考えを自分で修正していく力を身につけることができます。

 本校では、図書館にPCスペースを作り、生徒が自由に使えるようにしました。すると、教師と生徒の有志が集まって、e-sportsやプログラミングをはじめました。この居場所を「一条プログラミング倶楽部」と呼んでいます。楽しみながらどんどん学ぶ生徒は、プログラミングの全国的な賞を受賞するまでになりました。

 生徒それぞれにきっと好きなことがあるはずです。色々な居場所を作って、それぞれの興味にどれだけ向き合えるかが、私たち学校にとっての仕掛けだと考えています。

 本校の校是は「フロンティア・スピリット(開拓者魂)」です。「何かやってやるぞ」という受検生の挑戦を待っています。

 

進学館

 

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