2000年ごろにすでに予測された社会の激変
近年、急速にデジタル化、グローバル化が進み、教育もそれに応えるべく、学習指導要領が大幅に改訂されました。しかし、2045年にAIが人間を超えるという予測(シンギュラリティ)は、2000年ごろにはすでに提唱されていたものです。10年前の指導要領の改訂に反映されていればよかったと感じています。
2000年当時には到底無理だと思われていた機械による人間の表情の読み取りや指の動きの模倣なども次々と実現されて、AIやロボットの技術は想像以上のスピードで世の中を変えつつあります。
当然、学校教育も旧態依然としたままでは通用しなくなります。学びの基礎となる知識とその理解は今後も変わらずに重要ですが、それだけでは不十分になるでしょう。教育の根幹は、子どもたちが将来幸せに生きていく原動力を身につけること。人生100年時代といわれる現代には、100年先の将来にも活かせる学びを、6年間あるいは3年間で提供しなければならないと考えています。
AI時代に重要な学力
新しい学習指導要領では、従来の「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力」と「学びに向かう力・主体性・人間性」が評価の観点として掲げられました。中でも三番目の観点がこれからのAI時代には重要になってきます。
主体性や人間性は数値で表すのが難しい、いわゆる「非認知能力」です。忍耐力や協調性、自己コントロールなども同様の能力です。数値に現れる学力を伸ばすためにもこの非認知能力を高めることが重要だとわかってきました。そして、それだけではなく、非認知能力は、AIがいかに進歩しても、人が幸せに生きるために大切な能力なのです。本校では、この力を伸ばすことが、これからの学校の役割になっていくと考えています。
独自の教養教育「リベラルアーツ・デー」
そのため、独自の教養教育に取り組んでいます。隔週土曜日を「リベラルアーツ・デー」として、高1・2生全員を対象に様々なテーマの講座を開講しています。
ゼミ形式で一つのテーマにつき30名以内で、全8回の講座を実施しています。生徒がそれぞれの興味関心に応じて、学んでいくテーマを選び、その分野の専門家から教わりながら、考えたり、ものを作ったり、議論をしたり、プレゼンをしたりします。テーマには、生徒が興味を持つような、環境問題やジェンダー問題について考える講座など、SDGsに関連するものも多く用意しています。
また、中学校では、演劇を活用した情操教育とプログラミング教育をそれぞれ月1回実施します。演劇教育は、欧米で注目されている先進的な教育方法で、役になりきることで「シンパシー」を超えた深い共感・思いやりの気持ちである「エンパシー」を育てます。プログラミング教育では教科の授業では扱わないようなゲーム作りを通した論理的思考のトレーニングや、海外のメディアに触れてデジタルリテラシーを高める取り組みなども行なっています。例えば「コロナ 感染者数」で検索すると国内のウェブサイトばかりヒットしますが「covid-19」で検索すると、ジョンズ・ホプキンス大学のウェブサイトが上位に出てきます。同大学が提供するデータは世界中のメディアが必ず参考にするものですが、日本語で検索をしているだけではなかなかたどり着けない情報です。
国境を超越して物事を考える
もう一つの大きな社会の変化はグローバル化です。本校は早くから国際教育に力を入れていて、2005年、タイの学校と姉妹校提携を結んで以降、ポーランド、インドネシア、パラグアイと、世界の様々な国に姉妹校を増やしてきました。一つは異なる文化への接し方を学ぶこと、もう一つは母語が英語でない人たちと共通言語として英語でコミュニケーションを図り、理解し合うことが狙いです。
生徒は、あらゆる物事を国境を越えて考えなければならない時代を生きていきます。姉妹校の生徒たちと一緒に生活して、世界の文化や宗教を肌で感じるという経験がなければ、本当の意味での異文化理解は難しいのです。これからの時代に、学校が閉じこもっていては、グローバル時代の教育はできません。
他にも、SDGs研修として、ニューヨークにある国連本部を訪問しています。日本政府代表部も訪問して、日本や他国の外交官のお話を聞かせてもらう貴重な経験ができました。観光だけではなく、国際社会の実像に触れることで、世界に向けての視野は確実に広がります。新型コロナの感染拡大により一時中断していますが、スイスのジュネーブの国連施設への訪問も計画しています。
海外の名門高校の卒業資格やコミュニティ・カレッジへの提携進学
今年度からスタートした取り組みとして、PCD(プロビデンス・カントリー・デイスクール)との教育協定があります。この協定は、本校に在籍しつつPCDの単位も取得して、日米両高校の卒業資格を得ることができるというものです。PCDは、アメリカ・ロードアイランド州にある名門私立高校で、アメリカのトップクラスの大学への推薦合格者を多数輩出しています。なおかつ、200もの大学に給付奨学金付きで進学が可能です。この協定により、本校からアメリカの大学に進学する道が大きく広がりました。
また、以前から提携しているカリフォルニア州立マーセッド・カレッジには、8週間の準備期間を経て進学することができます。マーセッドからは多数の卒業生がカリフォルニア州立大学などに編入学していて、本校から進学した場合も、同様の進路が可能です。
これらの海外校との連携では、いずれも英検2級程度の英語力があれば、英語での講義を受講できるまで本校教員がサポートします。海外で学ぶ準備として、中学校では、アメリカ流の課題への取り組み方や心構えについてのレクチャー、ALTによるオールイングリッシュでの授業体験、英検2級取得のための対策などを実施します。アフターグラデュエート※のサポートもしっかりしていきたいと考えています。
※ 日本の学校を3月に卒業した後、アメリカの学校に9月に入学するまでの期間のこと。
子どもを育てるには「三分の寒さ」も必要
従来の日本社会では、失敗せず効率良く良い点数が取れるようになることが、いい大学に合格して、幸せな人生を送る近道になっていました。しかし、これからはそうではなくなります。単なる知識・技能ではAIが人を上回る時代に、幸せに生きていくためには、非認知能力の伸長が欠かせなくなるからです。
お子さんが失敗したり、回り道したりすることも貴重な体験だと考えてください。本当にお子さんのためを思うなら、失敗しないように前もってお膳立てするのではなく、試行錯誤する姿を、少し離れて見守ってください。「自分の力でできた」という達成感を持つことで、本当の意味で成長ができるのだと思います。