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大改革時代に向けて

2022.9.9

何を学び どのように生きていくのか その目標を明確に持ってください
常翔学園中学校・高等学校 校長 田代浩和 先生

田代浩和 先生
常翔学園中学校・高等学校 校長
同校教頭、教育イノベーションセンター初代センター長を経て、2022年より現職。早くから時代の変化を見て取り、キャリア教育、探究や積極的なICT活用など、新時代の学びの導入を推進してきた。

常翔学園中学校・高等学校
http://www.highs.josho.ac.jp/
大阪市旭区大宮5-16-1 06-6954-4435

 

well-beingに生きるための学び

 近年の世界の変化はとても激しく、遠い将来を予測することは難しくなっています。とはいえ、グローバル化の一層の進展、世界経済の中心が中国などのアジア諸国へと移ること、デジタル・ディスラプション(デジタル化による古い産業構造の破壊)、地球規模での少子高齢化や気候変動の問題の噴出など、明確にわかっているだけでもいくつもの大きな変化が起こります。当然、中高が今までと同じ教育をしていてはいけません。

 かつては、いい大学に進学して、いい企業に就職すれば、将来が安泰でした。働けば働くだけ豊かになれたので、多くの人が一生懸命に働きました。ところが今、働きすぎて心身に不調をきたすような例も増え、日本独自の終身雇用制は崩壊しつつあり、AIや科学技術の発達により雇用そのものが減るという、劇的な変化が起ころうとしています。

 私は、これからの時代に鍵となる考え方として「well-being」に着目しています。well-beingとは、多様な人々が健康的にも、精神的にも、社会的にも満たされた幸福な状態のことです。そんな社会の一員となり、またそんな社会を作っていくために学ぶ、という視点が重要だと考えています。

 

100周年を迎えて、次の中長期目標

 本校は2022年で創立100周年を迎えます。それに合わせた15年前の将来像「誰もが入学を望む地域有数の進学校」は、国公立大学への合格者が100名を超えた(2022年度128名)ことでほぼ達成できました。

 そして、2年間かけて新しい将来像「人々が幸福で平和に生きることができる世の中を創るため、生徒中心の教育を重視し、グローバルシチズンシップを身につけた自律的学習者を育成する先進校となる。」を策定し、それに伴い、生徒に身につけて欲しいコンピテンシーを考えました。

 これまで以上に、教育の中身を重視し、生徒中心の教育に取り組んでいきます。グローバルシチズンシップを備えた自律的学習者を育て、予測が難しい「VUCA」※1の時代にあっても、人々が幸福で平和に生きることができる社会を作っていく力を養います。

 近年、大学入試改革と連動した学習指導要領の改訂が行われました。これまでは、文部科学省の目指すところと大学入試で求められる学力が離れていたため、将来、社会で必要になるスキルを学ばせても、大学入試のスコアが上がらない、というジレンマがありました。しかし、それが大きく変わります。

 まず、探究科目が増えました。思考力・判断力・表現力という高度な学力に加えて、学びに向かう姿勢という非認知能力も授業の中で取り組むものになります。

 そこで、教科ルーブリック※2の作成にあたって「学校として、生徒にこんな力を身につけてほしい」という全体的な指針から作った方が良いと考え、学校全体としての評価基準「学校ルーブリック」を作りました。

 先生方と意見を交わして、学校ルーブリックの要となる3つのコア・コンピテンシー(能力・行動特性)を設定し、それを基に10個のコンピテンシーを次のように設定しました。

コア・コンピテンシー:知的冒険心(世の中のいろいろな事に興味を持ち、自ら学び、深く研究しようとする態度・心)
1 知識技能を習得する力
2 課題発見・解決能力
3 思考力・創造力
4 行動力

コア・コンピテンシー:ヒューマニティー(AI時代にあっても、情味に富み、他人に優しく、人倫の道をわきまえ人間らしく生きることのできる力)
5 協調性・社会貢献
6 倫理観
7 自己肯定感

コア・コンピテンシー:レジリエンス(困難な状況においても、しなやかに適応して生き延びる力。極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力)
8 柔軟性
9 メタ認知
10 主体性

 この10個について、各5段階の評価基準を設けて、学校ルーブリックとしています。これを各教科に当てはめたものが教科のルーブリックとなるので、学校全体で目指す学習者像が明確になっています。これらは全て、未来を幸せに生きていくための力であり、それを身につけることを目指します。

※1 VUCA V(Volatility:変動性)U(Uncertainly:不確実性)C(Complexity:複雑性)A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字
※2 ルーブリック 学習到達度を示す評価基準を、観点と尺度からなる表にしたもの

 

探究とグローバルで外の世界を体験

 また生徒に挑戦する経験を持ってもらうため、探究とグローバルの2つを重視しています。探究学習では、一貫Ⅱ類、特進、文理進学コースのグループが、高1「企業探究学習」と高2「ヤングリーダーズプラン」や「夢発見ゼミ」に、一貫Ⅰ類、スーパー、薬学・医療系進学のグループが、高1~3「ガリレオプラン探究」に取り組みます。

 企業探究は、クエストカップを活用し、協賛企業の「社員」となって、企業から出されるMissionの解決策を考える取り組みです。クラス予選を勝ち抜いたチームが、校内発表会に出場し、優秀なチームは本校代表としてクエストカップ(全国大会)に出場します。2021年度、準企業賞を受賞しました。

クエストカップ準企業賞

 また「ヤングリーダーズプラン」(一貫類、特進)では大阪市旭区役所と連携して、区の課題を調査し、解決のための動画コンテンツを作成、発表を行います。「夢発見ゼミ」(文理進学)は、学園内大学から各学部の先生方に来てもらい大学の研究内容に触れ取り組みです

 ガリレオプラン探究は、高1ではデータサイエンスやプログラミングの基礎を学び、高2では「イノベーション」「物理」「化学」「生物」「情報科学」など8つの研究ゼミにわかれて、1年かけて自由研究に取り組み、秋の文化祭でポスター発表、2月の校内発表会でステージ発表に取り組みます。そして、高3で、2年次の成果を論文にまとめ、発表を行います。2021年度から、台湾の国立彰化女子高級中學と科学探究の交流がスタートしました。オンラインで、お互いに研究発表を行い、相互に最優秀チームを選びます。

自由な学びに取り組むガリレオプラン

 2024年、高校に「グローバルコース(仮称)」を新設します。ポストコロナの急速なグローバル化を見据え、授業そのものをグローバルに対応させたコースです。英語をツールとして使いこなせるコミュニケーション能力をベースに、論理的・批判的思考力や行動力を身につけ、到来するアジアの時代に向け、アジアにも目を向けた教育プログラムに取り組みます。

 

保護者は答えを与えるのではなく寄り添う姿勢で

 日本の若者は、他の先進国と比べて自己肯定感が低い、という調査結果があります。私は、この調査結果を見た時に衝撃を受けて「何とか変えたい」と思いました。同時に今まで学校は何をやってきたのだろうという疑問も抱きました。日本の若者はあまり大きな夢を語りません。これを改善するために、学校にできることはたくさんあると感じています。

 学校は本来、安全に失敗ができる場です。失敗して、その原因を考え、工夫して成功してはじめて「自分はできる」という実感を持ち、大きく成長するのです。ところが、旧来の学校教育では、失敗を過度に恐れて、実際に体験させる機会を避けて来たように思います。

 世の中の変化に応じて学び方も変わります。大学合格はゴールではなく、子どもたちの人生の新しいスタートです。生徒の皆さん、これから何を学んで、将来何をしたいのか、その目標を明確に持って学んでください。どのように生きていきたいのかを、しっかりと考えてください。保護者の方も一緒になって考えてください。すぐに答えを出そうとするのではなく、寄り添う姿勢が子どもたちの励みになると思います。

 

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