将来の展望が広がる環境
4月に本校校長に就任して、最初に感じたのは多くの「新鮮な驚き」でした。女子教育の学校であり、中高一貫というだけでなく大学・大学院まで併設されているというのは、他校、特に公立中高にはない、この学校の大きな魅力です。
入学したばかりの中学生が、高校生、大学生、大学院生の先輩を見る時、瞳が輝いていたのが印象的でした。「自分もあんな格好良い先輩になる」「女性も研究者やリーダーとして活躍できる」など、目指すロールモデルが身近にいることで、中学・高校・大学、さらにその先へと人生の展望や将来の夢が広がっていきます。
また、中高という多感な時期、近くに異性の目があると、多少なりとも尖った部分を丸めてしまいがちです。それに対して、女子生徒しかいない環境では、尖った才能を思う存分伸ばすことができます。これも大きな魅力だと感じます。
100周年に向け教育内容の総点検
武庫川学院は現在創立84年。あと15年ほどで100周年を迎えます。時代が大きく変わりつつある今、創立時に掲げた、本学院の原点である立学の精神を現代版へとアップデートするため「MUKOJO Vision」を策定しました。本校においても、不易を大切にしながらも時代の要請に応じた教育を展開していきます。詳細は今まさに詰めているところですが、現時点でお話しできるのは次のような内容です。
まず、キャリア教育を中心に据えた教育を行います。人生100年時代と言われるこれからの時代、100歳までの自分の生き方を自分で作ることができるようになってもらいたい。特に、女性はライフステージごとに環境が大きく変化します。ある時期は仕事に打ち込み、ある時期は子育て、その間は一旦仕事を休んで、違う自分を見つけることもできます。100年かけて自分だけの人生を描いていく「一生を描ききる女性力」の育成を目指します。
また現在、先生方にお願いして、カリキュラム、授業内容、行事など本校教育の総点検を行なっています。日々の活動の一つひとつを、立学の精神である「高い知性」「善美な情操」「高雅な徳性」のより良い実現に結びつくようにしていきます。
2022年度に高校でも新学習指導要領が本格スタートしました。「主体的、対話的で深い学び」を通した「学びに向かう力」などの三つの柱が、学校の中で育成する力として位置付けられました。これまでよりも主体性などを重視した授業を一層進め、生徒の将来に生かされる本当の学力を身につけてもらいます。
グローバルとICTでも新たな取り組み
これからの時代に重要な「グローバル」と「ICT」についても新たな取り組みを考えています。グローバル時代には、自分が主張したいことを物怖じすることなく、主体的・積極的に発信する力が欠かせません。そのために、英語力の強化はもちろん、異文化理解と日本文化の学習にもより力を入れていきます。
中学校段階で海外を経験できるよう、ワシントン州フォートライトにある武庫川女子大学のアメリカ分校(MUSC)の活用を学院本部と検討しています。MUSCの寮に入り、安全性を確保しながら国際的な視野を身につける取り組みを立ち上げたいと考えています。
世界を知ると同時に、日本のことも知っていなければなりません。グローバル化が進んだことで、逆に日本独自の文化の価値が高まりました。一例を挙げると、書道を欧米文化圏の人に紹介すると、たいへん喜ばれます。このように日本で育まれ、世界に伝えるべき価値のあるものは少なくありません。本校では、中2で全生徒が華道・茶道を学び、家庭科では和装の着付けや和食のマナー等を学びます。
ICT教育については、現在「データサイエンス類型」で、情報をいかに収集し、どう加工するか、それをどう活用するかという学びに取り組んでいます。これを全校生徒対象へと広げます。これからの時代、文理を問わず、コンピューターとの関わりはますます増えていくでしょう。AIやビッグデータによって社会がどのように変わっていくのかを、実践を伴った知識として知っておくことは、コンピューターの操作やプログラミングと同様に重要なことです。23年4月に武庫川女子大学に社会情報学部が開設され、この分野の研究力が一層充実します。大学との連携のもと、中高での学びもさらに広がると期待しています。
SSHの成果を全生徒に
本校は、SSH指定校として、探究活動にも高いレベルで取り組んできました。この学びを現在全生徒に広げています。個別の教師の力量によって成果が左右されやすいという問題点を解消すべく、これまで積み上げてきた知見を整理して体系化し、どの先生が担当であっても、どの年度の入学生であっても、必ず十分なレベルに到達できる活動を目指しています。
大学受験の準備に時間を取られず、6年間を十分に使えるという大学附属のメリットを活かして、本物の探究活動に取り組んでもらいます。そのためにも、私たち教師もこの時間的メリットを活かして、何でも教え込んでしまうのではなく、生徒が自らの力で学ぶことに重きを置くような、意識の転換を進めます。
子どもの成長に合わせて時には待つことも重要
中学生時代は、人生でも一番伸び代のある時期です。この時期にどのような教育を受けるのかが、その後の生き方に大きな影響を与えるでしょう。
本校の先生方は、とても丁寧で面倒見が良く、それはそれでとても素晴らしいことなのですが、生徒はいずれ自分たちで何かに取り組み、自立して学ぶようになっていきます。「教師とは教える者である」というのは既に過去のこと。新しい学びで求められている力は、ただ教えるだけでは育っていきません。時には、じっと待つことも必要になります。本校が元来持っていた「丁寧さ」に「じっと待つ」ことを組み合わせて、生徒の成長に合わせて使いわけながら、これからの時代に相応しい本校の教育を展開していきます。