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大改革時代に向けて

2023.9.22

古い学校の常識を見直し新時代の学校をゼロから作る
ドルトン東京学園中等部・高等部 校長 安居長敏先生

安居 長敏 先生
ドルトン東京学園中等部・高等部 校長
副校長格としてドルトン東京学園の開校にあわせて入職。2022年より現職。旧態依然とした「学校」のありかたを再定義し「Street Smart」な視点で子どもたちに必要な学びの実装を目指す。

ドルトン東京学園中等部・高等部
https://www.daltontokyo.ed.jp/
東京都調布市入間町2-28-20 TEL 03-5787-7945

 

工業化時代の教育はもうやめよう

 およそ100年前、アメリカでも詰め込み型の教育が主流でした。工業化が急速に進んだ時代を背景に、当時の学校はロボットのような子どもを育てることに一生懸命だったのです。そんな時代にあって、自分で考えて学習する環境を整えれば、子どもたちは本来持っている自ら学ぶ力を発揮できるとして「自由」と「協働」に基づく学校作りに挑戦したのがアメリカの教育家ヘレン・パーカストです。彼女が確立した教育理論はドルトン・プランという名称で、1919年にニューヨークに設立されたThe Dalton Schoolをはじめ、世界中のドルトンスクールで実践されています。

 本校はドルトン・プランの考え方を、現代の日本に合う形で取り入れ2019年に開校しました。旧来の「学校」の常識を見直し、チャイム・校則・定期テスト・校歌・修学旅行・生徒会・PTAなどをなくしました。このうち、生徒会とPTAは設立後に生徒や保護者が自発的に立ち上げてくれました。必要かどうかわからないものを「常識だから」用意するのではなく、必要かどうかをゼロから考えるという発想で作った学校です。

 

自分で学びを取りに行く自立した生徒集団

 ドルトンの「自由」と「協働」はクラス運営や授業方法にも反映されています。まず「協働」については、学校生活を学齢で区分けされた集団で過ごすのではなく、より社会に近い、異年齢集団で過ごすことから始まります。

 1学年約100人×6学年を、縦に6つのグループ(D、A、L、T、O、N)に分けて、中1から高3までが含まれる「ビッグハウス」を構成します。この集団が学校生活の基本となりますビッグハウスはさらにD1~D4というように4つの約25人の小集団(スモールハウス)へと分けられます。

学校生活の基盤となるハウス制

 学年で内容に違いがある授業以外は、このスモールハウスが基本単位となるので、いわば常時、部活動や生徒会活動があるような環境です。

 「自由」は工業化時代の枠組みを取り払う重要な理念です。たとえば、授業では、先生方は一方的に知識を与えるのではなく「アサインメント」と呼ばれる単元・テーマごとの学びのプロセス(学習の目的や到達目標、学習の方法と手順、様々な課題など)を生徒に提示します。そして、評価方法、レポートやテストの実施期日などを伝え、どのように学びを進めていくのかは生徒一人一人が考えて実践します。

 

「江戸時代がわかるツアーを作ろう」

 授業の具体例を挙げましょう。社会科では「江戸時代がわかるツアーを作ろう」という課題に取り組みました。江戸時代に関する多様なテーマの中からどこを深掘りするのかは生徒が自ら考えて選びます。

 一人の生徒は、一つのテーマに絞って探究しますが、クラス全体で見ると様々な切り口で発表されるので、結果的に江戸時代の全体を学ぶことになります。板書して「ここはテストに出ます」と覚えさせても、テストが終われば忘れてしまうものです。一方、興味を持って楽しみながら取り組み、友達も同じように調べて発表した内容はしっかりと定着します。

 危険な場合もある化学実験などでも、生徒の学びたい思いを大切にしています。大学での研究と同じように生徒に「実験手順書」を提出してもらい、教員が承認すれば、生徒が考えた実験でも行えるようにしています。

 このような授業が主体だと話すと、基礎学力が不安だという声が出てきます。本校では、中高で身につけるべき最低限のことは自学自習でクリアできるよう、教科書や教材を整えています。学力を身につける上で重要なのは、生徒が自分で考えて学びに向かうようになることです。この姿勢さえ身につけば、基礎学力はいくらでもついていきます。

自由に学ぶ 協働して学ぶ

 

探究が学びの柱

 ハウス制、アサイントメントと並んで、学校生活の柱として「ラボラトリー」があります。中等部では「基礎ラボ」「探究ラボ」の2つのラボ、高等部では「STEAM Lab」を本校独自の科目として設定しています。

 「基礎ラボ」では、学年ごとにテーマを掲げて、探究学習への取り組み方を意識しながら課題に取り組みます。中3では修了研究として、各自でテーマを決めて、3年間の学びの成果を発表します。

修了研究の発表

 「探究ラボ」では、生徒が自ら決めたテーマや課題に、自ら立てた学習計画に沿って取り組みます。年間50以上開講される「テーマラボ」の受講や、アサインメントのための自学自習、協働プロジェクトのミーティングなど、自由な探究活動が展開されています。

 どのラボでも共通するのは「学びの主体は生徒」であること。教員はあくまでも助言者として、答えではなく「学びの方法」を教えています。中には、学齢のレベルを遥かに超えることに取り組みたいと言ってくる生徒もいます。

 

生徒が自分たちで何でもする学校

 先ほど述べたように、本校の生徒会は生徒が自主的に立ち上げました。開校当初、本校には校則はありませんでしたが、生徒の中から「自分たちで規律・規範を作るべきだ」という意見が出てきました。とはいえ、最初の頃は全校生徒になかなか受け入れてもらえません。そこで、仲間を増やすなど試行錯誤しながら、現在の形の自治組織(DSC:Dalton Student Council)となりました。

 部活動も学校が用意したものだけに留まらず、ダンス部や競技カルタ部、テニス同好会など、生徒が自分たちで作りたいと言ってできた部がいくつかあります。必要なものは自分たちで作る、という学校の文化ができてきたように感じています。

 希望する進路は実に多様で、海外大学への希望者も2割ほどいます。サンフランシスコ州立大学やネブラスカ大学カーニー校との連携があり、奨学金受給などでメリットを受けられます。進路指導では、一律に偏差値の高い大学を目指すような指導はしません。もっとも大切なのは「なぜ、その大学を目指すのか」です。そのことを本人が考えて、結論として難関大学を目指すのであれば、本校の設立母体である河合塾のサポートも受けることができます。

 

子どもの幸せを願うなら時には放任も必要

 これからの時代に大切なのは、自分はどんな人間で、どんなことがしたいのかを内省し、好きなことや興味があることを見つけることだと思います。世の中、待っていてもらえる情報に質の高いものはそうそうありません。求める情報は自ら積極的に取りに行ってください。情報や熱意が足りないと、したいことも認めてもらえないものです。

 保護者の方は、子どもの試行錯誤を邪魔しないことが重要になると思います。親世代が良いと思うことが、子どもの将来にとって本当に良いとは限らない時代になりました。もちろん、道を踏み外しそうになったら助けることも必要ですが、できるだけ、あれこれ指図せず、自力で道を拓くのを見守ってください。ガミガミと叱るばかりの親子関係よりも、子どもの進みたい道について相談し合えるほうがずっと良い関係です。

 やりたいことに挑戦すれば、間違いなく上達します。子どもを信じて自由に取り組める環境を作ることが私たち大人のなすべきことだと考えています。

 

進学館

 

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