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大改革時代に向けて

2024.1.26

自分で考えて判断する自由な環境で学びの本質を楽しむ
東大寺学園中・高等学校 校長 本郷泰弘先生

本郷 泰弘 先生
東大寺学園中・高等学校 校長
公立校、東大寺学園教諭、同教頭を経て、2023年より現職。時代の変化は受け入れつつも、同校の伝統である自由な校風は変わらず残していきたいと話す。

東大寺学園中・高等学校
https://www.tdj.ac.jp/
奈良市山陵町1375 TEL 0742-47-5511

激しい時代の変化を背景に、教育の役割も大きく変わっていく。このコーナーでは「明治以来の大改革」と言われる教育大改革時代に、リーダーたちの指針や抱負をお聞きし、変化への心構えを考えます。今回は2023年度に新たに東大寺学園の校長に就任された本郷泰弘先生。就任初年度を振り返り、今後の東大寺学園と中等教育のあり方についてお話しいただきました。

 

「学校生活は楽しくなければならない」

 コロナの影響でこの3年間、全校生徒を集めての対面の式典が実施できませんでした。2023年の春は、4年ぶりに生徒たちと顔を合わせての始業式となり、生徒たちも高揚しているようでした。元気に集う彼らを見て、私は考えてきたスピーチを変更し「学校生活は楽しくなければならない」と話しました。

 生徒たちは大歓声で新校長の言葉を迎えてくれました。20年以上も本校の生徒を見てきた私としては、東大寺の良さは、好きなことをとことん追求できる雰囲気があり、教師もクラスメイトもそんな”変わり者”を尊重し、受け入れる校風にあると考えてきました。

 学びも、人間形成のための行事やクラブも、そもそも楽しくなければ、そこから身につけられるものはほとんどありません。学校は、多くのものを吸収できる多感な年頃の子どもたちに対して、理不尽に何かを強いる場であってはいけないと思っています。

 

子どもは遊びを通して成長する

 ただ、時代が変わり、生徒の気質も変化します。以前の本校には、独立心旺盛な生徒が多くいて、教師が生徒に自由にさせるというよりも、生徒の側から「放っておいてくれ」と独立を宣言するようなところがありました。

 近年は、それぞれのご家庭で大切に育てられてきたこともあり、中学入学後に突然「自由にしろ」と言われると、どうすればいいのかわからなくなるようです。そこで、自分たちで考えて判断する経験が重要になります。

 また近年、中学受験の競争が激しくなり、小学生時代にやりたいことを犠牲にして、受験勉強に取り組んできた生徒も少なくないと思います。仕方がないこととはいえ、遊びを通して鍛えられる人間関係の取り方や心身の強さが不足がちになってしまいます。

 これらを踏まえて、中学入学後には行事やクラブ活動を通して、自由に考えて行動する経験や人間力の育成にも勉強と同等に力を注いでいます。たとえば文化祭では、予算を決めれば、後は生徒に「去年よりいいものを作れ」とだけ言って任せています。他にも、アウトドアの行事を充実させて、スキーが滑れるように、本格的な登山ができるようにしていきます。自然の中での遊びを通して、たくましく育ってほしいからです。

自由な校風を体感できる菁々祭(文化祭)

 クラブ活動が自由で活発なところも本校の特徴です。生徒が作りたいと思ったら同好会を作ることもできます。10年ほど前、本校の卒業生でロケット研究の第一人者を講演に招いたことがありましたが、その話に感動した生徒が、直接その研究者と連絡を取り合い、ロケット同好会を立ち上げました。この同好会から実際にロケット研究の道に進んだ卒業生もいます。他にもユニークなところではラーメン同好会があります。新しく開店したラーメン屋や珍しいラーメンを食べて感想や評価をレポートしています。折り紙研究部やクイズ研究部も活躍しています。

ロケット同好会

 

将来のリーダーに必要な資質

 考え方として大切なことは、クラブや行事に力を入れるのが単なる「勉強の息抜き」ではないということです。これらに取り組むことが将来、社会のリーダーとして活躍する人物に欠かせない資質を育てるからです。

 リーダーとして活躍できる人物は、知識や技能は当然持ち合わせていますが、それだけでは不十分です。苦難に直面しても諦めない強かさや人の嫌がることを進んで引き受ける前向きで積極的な姿勢、他者の気持ちを思いやれる人間性といった非認知能力も必要です。クラブや行事には、これらの力を鍛えるような状況がよく現れるものです。

 大学入試の突破だけが目標であれば、受験対策ばかりしていればいいのですが、それではつまらない大人を作ってしまいます。そうならないよう、普段から授業が「テストのための勉強」になってしまわないよう気をつけています。それぞれの教科の本質を教え、本質が伝わった生徒が「面白い」と感じること、これが何よりも重要なのです。

 本校でも、塾や予備校に通う生徒はいますが「やっぱり学校の授業の方が面白い」と言って戻ってくる生徒は少なくありません。

 

AIを使う生徒が出てくるのは必然

 昨年ごろから話題の生成系AIについては、今後、課題に使う生徒が出てくるのは必然だと思います。禁止するのは現実的ではなく、重要なのはどのような使い方をするのか、ということです。

 AIの発展は社会にも変化をもたらすでしょう。これからは、人間として勝負できることは何かを考えなければなりません。人間でなければ判断できないこともあります。たとえば、倫理的な問題はその一つ。良い・悪いの判断をAIに任せるわけにはいきません。

 学校の役割も変わります。知識を学ぶためだけであれば、学校の存在意義はどんどんなくなっていくでしょう。ただ、色んな人間と協力したり、衝突したりしながら育まれる力というのは学校でなければ身につきません。また、価値判断を含んだ知識の伝達や、生徒の反応を見ながら関心のあるものを提供していく、といった人間の教師でなければできないことは依然として残っていくと考えています。

 

世界レベルの志に触れる

 2016年からイギリスでの短期研修を実施してきました。最初はオックスフォード大学、2023年からはケンブリッジ大学に移りました。本校独自のプログラムで、高2夏休みに希望者が参加して行います。希望者が多く、選考になることもあります。

オックスフォード短期留学

 海外の大学生の多くは「安定した大企業への就職」をゴールにしていません。やりたいことが明確であったり、世界を変えたいという大きな目標を持っている学生もいます。そういった高い志に触れることは、生徒の人生にとって大きなプラスになると考えています。

 イギリスでの研修ですから、英語が使えないと意思疎通はできません。ただ、研修を終えて、最終的に高く評価されるのは、英語が流暢な生徒よりもしっかりとした中身のある生徒です。本校では中1の英会話から大人向けの教本を使い、海外旅行用の英会話のような中身のない会話はさせないようにしています。そういった会話をさせても本校の生徒はすぐに飽きるでしょう。

 

関心と疑問を持って勉強する

 学校選びでは、できるだけ実際に見学したり、文化祭を見に行ったりして、その学校の雰囲気を感じてください。どの学校がベストなのかは一人ひとりで違います。入試問題は、どういう生徒を入学させたいのかがわかる手がかりの一つです。じっくりと眺めて、解いてみて、学校からのメッセージを読み取ってください。ちなみに本校では、記述問題を多く出題しています。深く考える力、論理的に考える力を見たいからです。

 また、すぐに答を出そうとせずに、じっくりと考えて、自分の答を見つける習慣を身につけてほしいと思います。与えられた情報を疑ってみることも自由に生きるために必要な力です。

 勉強とは、何でもかんでも覚えることではありません。関心と疑問を持って、それに対する答を探していくことが大切なのです。

 

進学館

 

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