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大改革時代に向けて

2024.6.28

社会にも海外にもどんどん出ていく中高での「学の実化」
関西大学中等部・高等部 校長 松村湖生先生

松村 湖生 先生
関西大学中等部・高等部 校長
同校・研究開発主任として探究活動を担当後、1年間の教頭を経て、2023年より現職。全ての生徒が「楽しかった。来て良かった」と思える学校にするため、生徒・保護者・教員がより良い教育に取り組める環境づくりを第一に考えている。

関西大学中等部 https://www.kansai-u.ac.jp/junior/
高槻市白梅町7-1 TEL 072-684-4326

激しい時代の変化を背景に、教育の役割も大きく変わっていく。このコーナーでは「明治以来の大改革」と言われる教育大改革時代に、リーダーたちの指針や抱負をお聞きし、変化への心構えを考えます。今回は2023年に関西大学中等部・高等部の校長に就任された松村湖生先生。探究学習やグローバル教育で先頭を走る同校の取り組みをお聞きします。

 

コロナが明けて大きな声で笑えるように

 昨年度、新型コロナが5類感染症になり、教育活動への制約がほぼなくなりました。一旦休止していた行事が復活し、新たな取り組みもようやく進められるようになりました。

 昨年のオータムセミナーは、久しぶりに中高合同で実施することができ、NGKを貸し切って、漫才や新喜劇を観劇しました。体育祭も中高合同に戻し、文化祭も一般入場ができるようになりました。開放的な雰囲気の中で、生徒たちがみんなで大きな声を出して笑う姿を見て、元気が戻ったと実感しました。

 

笑顔で礼儀正しい挨拶

 本校は中等部3クラス、高等部で1クラス増えて4クラスの小規模校です。1つの学年が同じフロアで学び、生徒同士のつながりが強いアットホームな校風があります。教員と生徒との距離も近く、職員室前には質問や相談に来る生徒の姿がいつも見られます。

 私が校長に就任して最初に挨拶する時、生徒たちは前もって知っていたのか、とても大きな拍手で迎えてくれました。親しみやすく社交的なところも本校生徒の良いところです。昨年度、阪神タイガースのスローガン「A.R.E」にかけて「A:挨拶、R:礼儀、E:笑顔」を本校でも掲げたところ、生徒は積極的に実践してくれて、笑顔で礼儀正しい挨拶は来校者にも感心されるほどでした。

 

思考力を伸ばす「考える科」

 思考力は、新しい学習指導要領にてより重視されるようになりました。本校でも「思考力の育成」は重点目標です。中等部の3年間にわたって「考える科」という授業を設け、考えるスキルの活用や道徳的実践力の育成に取り組んでいます。

 中1「公開ディスカッション」では、お互いのディスカッションを交互に評価し合い、どんなディスカッションが良いのかを学びます。大会の形式で、生徒同士の評価によって、班代表、クラス代表と選出して、2テーマ×3クラスの代表6人によるディスカッションを学年全員の前で行います。東京オリンピックでのおもてなしをテーマに議論した際、あるクラス代表は外国人に喜ばれるおもてなしとして「おにぎり」を提案しました。それに対して、別の代表が「味噌汁」を主張して議論が白熱しました。そんな中で、審査員が選んだのは、両者をまとめて「定食」と結論づけた生徒でした。見事な結論でとても印象に残っています。他にも、あえてインターネットを使わずに本のみで調べる「調べるミッション」にも取り組みます。本来の学びは、新たな知識を見つけた時点がスタート地点です。そこからどのように学びを広げていくのか、その技法を身につけます。

「考える科」公開ディスカッション

 中2では、正しい表現とは何かを考えます。たとえば、折り紙は、図より動画の方が分かりやすいのですが、では、それを文章だけで説明すると正しく伝わるのか? 正しく伝えるにはどんな文章にすればいいのか? などを考えます。他にも「物語の動画」を見て、役者の感情や監督の伝えたいことを文章として表現します。

 中3では、論理的思考、創造的思考、メタ認知に取り組みます。「パラグラフライティング」で1枚の写真を見て400字で説明したり、ゲーム理論について学びます。

 これらの考える学びは、道徳の時間と連携して「いのちの学習」に発展させています。人の誕生・子育てから、生徒自身が各家庭でどのように育ってきたのか、そして、多くの日本人にとって他人事ではないガンについて、正しい知識や治療法を医師から学びます。つんく♂さんや忌野清志郎さん、小林麻央さんなど、ガンを患った有名人の生き方を参考に、治療を優先するのか、生き甲斐を優先するのか、といった正解がない問題について考えます。

 

社会に開かれた学校

 現在の学習指導要領では「社会に開かれた学校」が目指されています。本校でも、関西大学の学是「学の実化」の精神のもと、社会とつながった授業を多数展開しています。

 その中核をなすプロジェクト学習は、高槻の町でフィールドワークに取り組む「MACHIプロジェクト」(中1)、和歌山県日置川で第一次産業・第二次産業を体験し、本校での物産展(第三次産業)を企画する「MIRAIプロジェクト」(中2)、そして「おもてなし」「もったいない」「しあわせ」からテーマを選び、京都でのフィールドワークとカナダ研修を通して自分自身について考える「MICHIプロジェクト」(中3)です。

 これらのことを中等部の3年間で学び、高等部でのプロジェクト学習へと発展していきます。1年生ではSDGsフォーラムを開催し、参加した企業や団体から、現代の社会問題に対してどのように向き合い、解決しているのかを学びます。また、高等部1・2年では、社会・人間・自然・安全の4系列10分野のゼミにわかれ、各ゼミに関西大学の教員が配置され、年間を通して指導してもらいます。そのような指導体制のもと、2年生で卒業論文を執筆し、3年生でそれまでの集大成となる卒業研究発表会と葦葉祭(文化祭)での地域貢献・社会貢献型模擬店を企画します。大学附属校や併設校としても、これだけの密度の高大連携はあまり例がないものです。

 

AIをどう活用するのか

 本校では、以前からICT推進部を設置して、教育活動でのICT活用を積極的に進めてきました。ICT活用が当たり前となった現在は、さらに一歩進んで「AIをどう活用するのか」を考える段階になっています。

 たとえば、論文を書く場合にAIをどう使えばよいのか、などを検討しています。AI技術を昔に戻すことはできません。基本的には、生徒に自由に使わせたいと考えています。生徒からなるICT委員会がChatGPTについて調べて発表した時は、挨拶の文言をChatGPTに考えさせて、聴く側を驚かせていました。

 

海外大学進学も選択肢に

3年生のカナダ研修旅行

 コロナ禍が明けて、海外との交流は以前にも増して充実しています。コロナ前からあった、中等部でのカナダ研修、高等部のタイ研修(コロナ前はハワイ研修)などの豊富な海外研修旅行、台湾やシンガポールとの短期交換留学制度に加えて、今年から韓国・東灘(ドンタン)国際高校との日韓交流プログラム、関西大学国際部主導でのフィリピンへの短期留学制度をスタートさせました。東灘国際高校との交換留学期間中に、ハワイからの留学生も受け入れ、その間、本校内がSGHネットワーク参加校にふさわしい国際色豊かな雰囲気となりました。留学制度の充実はグローバル教育に強い関西大学の併設校としての強みでもあります。

 また、2027年度を目指して、海外大学への進学指導を準備しています。すでに高1生を対象にガイダンスをはじめています。

 

受験生へのアドバイス

 これからの時代、一層重要になるのは、情報を正しく活用する力、すなわち思考力です。本校の入学試験でもその力を問いたいと考えています。そのため「読む力」としっかりと書くことができる力を伸ばすことが対策となるでしょう。本校の入試問題は、比較的文章が多いという特徴があります。素早く文章を理解する力が有利なのは間違いありません。とはいえ、きちんと読むことができれば、難しいところのない素直な問題が多いので、特別なテクニックではなく、基本的な読む力・書く力を伸ばしてください。

 

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