MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

大改革時代に向けて

2025.4.25

挑戦しよう 失敗してもいい そこから学ぶことがたくさんある
利晶学園大阪立命館中学校・高等学校 校長 花上徳明先生

花上 徳明 先生
利晶学園大阪立命館中学校・高等学校 校長
首都圏の私立中高、立命館慶祥(教頭)、立命館小学校(副校長)、同中学校(副校長)などを経て、現職。多様性の涵養を意識した『Be Unique』を大切にし、「Science」と「Global」を2つの柱とした教育活動を展開。ご自身の信念でもある「挑戦しよう 失敗してもいい」の考え方は、節々で生徒に伝えていて、挑戦する姿勢は生徒の活動においても定着しつつある。

利晶学園大阪立命館中学校・高等学校
https://www.hatsushiba.ed.jp/ritsumeikan/
堺市東区西野194-1 TEL 072-235-6400(中学校)

激しい時代の変化を背景に、教育の役割も大きく変わっていく。このコーナーでは「明治以来の大改革」と言われる教育大改革時代に、リーダーたちの指針や抱負をお聞きし、変化への心構えを考えます。今回は先見の明とチャレンジングな取り組みで志願者を増やし続ける利晶学園大阪立命館(2025年度、初芝立命館から改称)の花上徳明先生。古い常識にとらわれない21世紀の学校像をお聞きしました。

 

教育は一つの物差しで測れない

 私は全国のいくつかの学校を歴任して関西に来ました。その時に感じたのは、受験学力という単一の物差しで学校を測ろうとする古い考え方が根強かったことでした。これからの時代、単なる知識は調べればすぐに得られます。それなのに、知識をInputして正確にOutputすることがいまだに「良い教育」の基準とされている傾向があります

 本校では多様性を大切にしてきました。受験勉強をがんばる生徒はもちろん、クラブ活動や習い事に打ち込む生徒がいても良い。学校の中の小さな価値観にとらわれず、学校の外の世界にも目を広げて、いろいろな分野でがんばる生徒がいる学校にしようと取り組んできました。

 教師というのは「たくさん授業をすればするほど、生徒はできるようになる」と考えてしまいがちです。しかし、実際には、生徒の時間を拘束するばかりで、成果につながらない場合も少なくありません。生徒にはそれぞれやりたいことがあり、成長するためには、自らそれに打ち込む時間が必要だからです。

 そこで、就任以来、授業のコマ数を減らしてきました。自由に使える時間を増やしてあげると、生徒は自らの学びに取り組みます。実際に、東京大学でノーベル賞受賞者などから直接指導を受けられる研究合宿に参加したり、ゲームの世界大会に挑戦したりなど、学校の外で多様な活動をする生徒が増えています。

 

「何になりたいか」ではなく「どんな人になりたいか」

 生徒には常々「挑戦しよう。失敗してもいい」と、学校の内外問わず自分のやりたいことに挑戦することを奨励しています。保護者のみなさんにも、お子さんのやりたいことにはできるだけ反対せずに、やらせてほしいと伝えています。例えとして、子どもがスケートボードをやりたいと言うのに危ないからという理由でやめさせると、将来、オリンピックでメダルを取るかもしれない可能性をつぶしているという話をしています。仮に成功できなかったとしても、挑戦から学ぶことはたくさんあります。失敗は成功のプロセスでもあります。どんな分野であろうと、結局、学びがあるのは本人が自ら取り組んだ経験からなのです。

 生徒によく言っていることがもう一つあります。それは「何になりたいか、ではなく、どんな人になりたいか、を語れる人であってほしい」ということです。これからの時代、産業構造の変化は急激になり、職業も変わるでしょう。それよりも、社会について、世界について、どのように考え、どう変えていきたいのか、そのためのベースを中高の間にしっかりと学び、いろいろなことを経験してほしいのです。

 

先頭を走ってきたICT教育からAI時代へ

 私は、2008年、立命館小学校の副校長として、5、6年生に一人一台タブレットの実現を推進しました。本校に就任した2020年、中学では、すでに導入されていたiPadで、個別最適化に対応した活用などに着手しました。高校では、私自身のこれまでの経験を活かしてBYODでの運用をスタートしました。現在は、ICT活用においてかなり進んでいる学校だと思います。

先頭を走るICT活用

 そして、現在はAIの活用を進めています。外部の専門家を招いてAIについての講座を開き、安易な規制ではなく、正しく使う方法を身につけます。AIは教育のあり方を大きく変えます。使わせない、という選択肢はもはやあり得ません。AIに対応できないまま大人になることは、未来を生きる生徒にとってはマイナスにしかなりません。AIに使われる人になってしまう可能性があるのです。

 一方で、人間が学ぶことも明確になってきました。2020年度早稲田実業中等部の入試問題で日米の自動車貿易について「あなたが日本の指導者だとしたら、日本の立場をトランプ大統領にどう説明しますか。(中略)説得を試みて下さい」という出題がなされました。

 Inputしたものを単にOutputするのではなく、データを複合的に読み取り、他者と協働して新たな何かを生み出すことが、人間にますます求められる力になっていくでしょう。

※Bring You Own Device:各自が所有する端末を授業で活用すること

 

SSH指定で拡充のサイエンス教育

 昨年度、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、これまで力を入れてきたサイエンス教育が認められ、文理融合での科学技術教育をさらに拡充していきます。

 取り組みの一環として、土曜講座「サイエンスラボ」を開講しています。立命館大学とも連携して、ものづくりの基本となる3D CADでの設計と3Dプリンターでの出力を体験します。

生徒が3Dプリンターで作成した同校キャンパス

 総合的な探究の時間では、STEAMの基礎となるScience、Technology、Engineering、Art、 Mathematicsに、Environment(環境)、Sports、Society(地域社会)も加え、それぞれに分かれて受講する授業や、堺市をより住みよい街にする「堺Well-beingプロジェクト」に取り組んでいます。また、我が国では、女性の理系分野への進出が他の先進諸国と比べて遅れています。そこで、大学や研究機関の女性研究者に協力してもらい、将来のキャリア形成の後押しもしています。

堺Well-being プロジェクト 学年発表会

 

「学校の考え方」をよく見て決める

 受験では、合否よりも「入学してから、思っていた学校と違った」というのが、一番の失敗です。どんな学校なのか、教育方針が自分に合っているのかどうかを見極めることがとても大切です。

 しかしながら、小学生には、この見極めは少し難しいように思います。そのため中学受験では、保護者のみなさんにこの点をしっかり判断してもらいたいと考えています。ご自身の時代にご自身が受けた教育という視点だけでなく、大きく変化する時代に生きていくお子さんに必要な学力とはなにかも重要な視点です。偏差値だけで選ぶのではなく、本校のように特色ある新しい教育を展開している学校を考える際には、この点は特に重要だと感じます。

 本校の場合、保護者アンケート調査では「入学させてよかった」について高い満足度が示されているので、よく学校の教育についてご理解いただき、納得して入学していただいているようです。

 どの学校を志望するにしても、説明会にどんどん参加して、疑問に感じたところがあれば、納得できるまで質問してもらえればと思います。

 

Category カテゴリ―