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大改革時代に向けて

2025.6.27

好きなことの探究から新しい価値を作り出せる人に
甲陽学院中学校・高等学校 校長 衣川伸秀先生

衣川 伸秀 先生
甲陽学院中学校・高等学校 校長
公立高校の教員を経て、2000年に甲陽学院の国語科教諭。教頭を経て、24年度より現職。どの生徒にも必ず良いところがあるとの思いから、それを見つけるべく温かく見守ることを大切にしている。

甲陽学院中学校・高等学校
http://www.koyo.ac.jp/
西宮市中葭原町2-15 TEL 0798-33-5012(中学校)

激しい時代の変化を背景に、教育の役割も大きく変わっていく。このコーナーでは「明治以来の大改革」と言われる教育大改革時代に、リーダーたちの指針や抱負をお聞きし、変化への心構えを考えます。今回は甲陽学院の衣川伸秀先生。同校が大切にする学校のあり方を通してこれからの時代にも通用する教育の本質を教えていただきました。

 

気品高く教養豊かな有為の人材を

 本校は「気品高く教養豊かな有為の人材の育成」を教育方針に掲げています。ここでいう「気品高さ」は「傲慢ではない」ことでもあります。自分が持っている知識だけで、世界を全て理解したつもりになることなく、自分の知っていることはわずかな一部であり、だからこそ、学んでいかなければならない、という自覚が学びのスタートです。

 この自覚は、知識を得ようとする姿勢だけではなく、自分一人の考えでは及ばないような、他者の考え、判断、価値観に対して敬意を払う姿勢にもつながっていきます。知識とともに自分の知らない世界や他者のことに興味を持ち、自分になかった視点をたくさん蓄えていくこと、これが「豊かな教養」のベースになります。

 そして、これらを備えた人としての「有為の人材」とは、単に「国家や企業の役に立つ人」という意味ではありません。既存の常識にとらわれず、新しい価値を作り出す人、よりよい世の中へと変えていける力を持っている人という、より広い意味を含んでいます。

 

コロナ禍で浮き彫りになった授業の本質

 近年、AIなどの情報技術の進展は急速で、中高がどう対応していくのかは考えていくべき問題だと思います。しかしながら、人が人に教えるという営みは、今に始まったものではありません。親から子に、古い世代から新しい世代へ、知恵と知識がずっと教え、伝えられてきました。この営みには、いつの時代にも変わらない部分があります。本校は、100年を超える歴史の中で、この変わらない部分を大切に守ろうとしてきた学校だと考えています。

 たとえば、コロナ禍での休校期間、本校でも動画で授業を配信しました。板書する内容をあらかじめパワーポイントで作った授業は、確かに効率は良かったかもしれません。ただ、ライブの授業で起きるような、教師の予想を超える展開が動画では起きないのです。生徒と同じ空間を共有することで、生徒とのインタラクションが活発になり、授業が自由に広がっていくのだと実感しました。

 このように、教育にはどうしてもアナログの部分が欠かせません。新しい技術の良いところとうまく組み合わせて、教育の大切な部分を活かすことが肝要だと考えています。

 一方で、これからの教育を担う若い先生方や、未来の社会に生きる生徒たちには、どんどん新しいことに挑戦していってほしいとも考えています。そのように言わずとも、生徒たちは自ら先進的なことを学んでいます。情報オリンピックに出場したり、情報分野の研究者になったりする卒業生も少なくありません。本校には、各自の知的好奇心のまま何かに取り組むことを許容し、奨励するリベラルな校風があるからです。

 

学校は知の体験のデザイナー

 教育の変わらない部分とは何かを一言で表すとすれば、私は学校というのは「知の体験のデザイナー」だと考えています。

 断片的な知識を効率的に教えることは、時には必要ですが、それだけでは「知の体験」とは言えません。知識をどのように使っていくのか、知識を使っていかに問題を解くのか、自分で考えて解決・発見に辿り着くこと、これらを体験することが「知の体験」です。

 そして、私たちはこの「知の体験」を提供する授業をデザインします。これが「知の体験のデザイナー」の意味です。それぞれの先生方が各自の専門知識を駆使して、そのような授業に取り組んでいますが、ただ専門知識があるだけでは、生徒の心に響きません。先生方自身が学ぶ楽しさを知っていて、率先して楽しむことで「学ぶことは楽しい」と生徒に伝えることができるのです。そのためにも、先生方には自由自在に授業を行ってもらっています。

「知の体験」の言葉通り実験も活発

 大学に進むと、中高時代よりももっと答えが見つかりにくい問題に取り組みます。楽しくなければ最後まで取り組むことは難しいでしょう。そこで、中高での「知の体験」が活きてくるのです。

 

良い人間であろうとすること

 本校は私立一貫校としては珍しい、中学校・高校が別キャンパスの学校です。中学段階と高校段階では、成長の度合いが異なり、目指す教育目標が違ってきます。中学校では「自立」、高校では「自律」が重要な目標となります。

 「自立」とは、たとえば、朝は自分で起きることができるなど、自分の身の回りのことを自分でできることです。生活面や学習面で保護者が付きっきりでなくても大丈夫になることが目標です。

 これに対して「自律」は、自由に生きるために自分自身の規範を持つことです。高校では、校則も制服もありません。保護者や学校に言われなくても、自らの意志で良い人間であろうとすることが目標になります。

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子どもの「好き」を大切に

 保護者のみなさんには、お子さんの「好き」を大切にしてあげてください。知らなかった世界に気づくような体験をたくさん積ませてほしいと思います。それは異質な他者との出会いの体験です。学校生活そのものが他者との出会いの場ですが、スポーツや音楽に親しんだり、昆虫の世界に没頭したり、本の中の異なる国の異なる時代の他者に出会ったり、そのような体験を通して子どもは自分を発見し自信をつけていきます。

 好きなことや興味を持ったことを探究するには、本校はとても良い環境です。それぞれの分野に突出した生徒がいるので、どこかで必ず良い刺激を受けるはずです。何より、同じように好きな世界に没頭している仲間がきっと見つかると思います。

 

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