激しい時代の変化を背景に、教育の役割も大きく変わっていく。このコーナーでは「明治以来の大改革」と言われる教育大改革時代に、リーダーたちの指針や抱負をお聞きし、変化への心構えを考えます。今回は追手門学院の木内淳詞先生。これからの時代の学校づくりをリードするお考えは、未来の学びが進むべき方向性の重要な指針となりました。
早く失敗すれば早く改善できる
今日、既にAIは無視できない技術になっています。本校でもAIへの対応を入念に検討して、一定のルールの下、学校で生徒も使えるようにしました。ICTに関わる制限はできるだけ少なくして、昼休みなどにも自由にネットにつないで、とにかく使ってみることを優先しました。
以前、コンピューターの導入では乗り遅れた苦い経験があり、新校舎への移転時に「とにかく早くやってみる」ことを奨励しました。先進校を視察して、早くやってみると、早く改善点が見つかるだけではなく、意義のある失敗を経験することができるとわかりました。
Fail early, fail often, but always fail forward. というジョン・マックスウェルの言葉を引いて、先生方にも生徒にも、失敗をネガティブに捉えず、むしろ機会であると訴えています。

自由な学びを促す21世紀型の校舎
学びは富士山型から八ヶ岳型へ
藤原和博氏が言うように、これまでの学習やキャリアの考え方は「富士山」に例えることができます。どこから見ても一つの頂上があり、その頂上が目標となります。たとえば難関大学への合格です。確かに、登りきったら、そこから見える景色は素晴らしい。しかし、登ってしまえば下るしかないし、山頂に行きつかなかったら達成感も乏しい。全員が同じ頂上(目標)を目指して競争するような学びは今後、価値を失っていきます。一つの答えをはやく出すだけであれば、AIにやってもらった方が効率もいい。
これからの学校が目指すのは「八ヶ岳」型の学びやキャリアです。八ヶ岳はいくつもの峰が連なる連峰で、どの山から登るのか、どんなルートで登山を楽しむのか、どこで下山するのかを登山者自身が選びます。目指すゴールは一箇所ではなく、一人ひとりが自らの興味関心や望むキャリアに応じて学び方を変えていきます。登っては下り、下っては登る。人生100年時代を生きる子どもたちには、まさにそれが学びであり、人生なのだと思います。
本校では、富士山型の登山指導で、上から生徒を引っ張りあげたり、後ろから背中を押したりするのではなく、生徒と共に一歩ずつ歩を進める、伴走者としての教員のあり方を追求しています。
AI時代に活きる「まずはやってみよう」精神
私学のメリットとして、よく「面倒見が良い」ことが挙げられます。確かに、先生の転勤もほとんどない中で、独自性を発揮している私学は多いと思います。ただ、私は過剰な面倒見の良さからは脱却したいと考えています。
どの私学も理念の上では「手取り足取り教えられないと何もできない人」を育てていないにも関わらず、実際には、手取り足取り、学校が主導してしまっています。すぐに答えをほしがったり、習っていないのでできないと言ったりする子どもを育ててしまってはいないか、今一度省みる必要があると思います。
中高は、自立の準備をするための場です。学校や教師に導かれるのを待っているだけでは、十分に学んだとは言えません。特に、AIの時代には、やったことがない、習っていないことに対して一歩踏み出す力が大きな差を生み出します。AIの助けがあれば、その一歩が、大きな一歩につながるのです。
生徒を成長させるのは「まずはやってみよう」の精神です。理屈やカタチが必要な場合もありますが、ほとんどの場合、見様見真似でもとりあえずやってみる方がずっと多くの気づきが得られ、そこから学びが駆動します。最初は上手くいかなくても、どうやったらいいのか考え、じっくりと観察し、友達と話しているうちに重要な気づきを得られます。
やってはいけないのは、理屈やカタチだけを教えて、実践をさせずに終えることです。理科の実験で結果だけを教えても、多くの生徒は科学の楽しさにたどり着けないでしょう。
海外大学進学の状況
進めてきたハワイ大学「ハワイ パスウェイプログラム」に加えて、近年では、提携校を増やしたこともあり、マレーシアの大学へ進学する卒業生が増えてきました。今春は、モナシュ大学マレーシア校に合格した卒業生もいました。
マレーシアには世界ランキング上位の優れた大学が多数あるだけでなく、物価が安く、学費が日本とそれほど変わらないことも大きな魅力です。また、非英語圏の中では英語教育が非常に優れているのも、進学先として選ばれやすい理由です。
高校では、マレーシア、オーストラリア、カナダへの研修旅行の他、多様な文化を体験してもらいたいとの思いから、スリランカや韓国・対馬への体験旅行も実施しています。対馬もスリランカも学校の団体旅行先としては珍しく、200人とか300人という規模の高校生の団体が訪れたのは初めてだったようです。
対馬は韓国との関係で歴史的に重要な島でもあり、土砂流出など環境問題の生きた教材でもあり、多くのことが学びになります。

スリランカ体験旅行
子どもの意見をよく聞いて納得の学校選びを
本校を一目見て気に入って志望校に決める、という方が結構いらっしゃいます。もちろん、とても嬉しいことですが、やはり他の学校も見ての比較・検討をおすすめします。特に、教育理念や方針が本人の性格に合っているか、学びに対する考え方や進め方はどうか、しっかりと検討してください。合っていなければ、どんなに良い学校であっても、成長の芽をつぶしてしまうことになりかねません。
大切なのは、本人の納得です。一緒に検討を重ねて納得した学校であれば、6年の間に起こる様々なことに立ち向かうことができます。自分で選んだ道だという自覚が本人の成長につながるのです。小6にもなれば、自分の意見が必ずあります。言語化が難しい感覚的な部分まで含めて、お子さんの意見をよく聞いてあげてください。