課題解決に取り組む女性を育てる
本校は女子校ということもあり、各家庭で大事に育てられ、真面目で言われたことをきちんとできる生徒に恵まれてきました。
しかしながら、グローバル規模の問題が山積し、AIが産業の構造を大きく変えようというこれからの時代に、言われたことができるだけでは社会で活躍する女性になるのは難しいでしょう。そのような時代の変化に合わせて、2020年度から大学入試が、従来の知識重視型から記述問題を増やした思考力・表現力重視へと変わっていきます。
そこで、4年前から「シナジータイム」という2時間続きの課題解決型授業を導入しました。グループでのディスカッションができるような教室も新たに整備しました。
シナジータイムでは、本校の教員が自分たちで教材を作るだけではなく、企業などの外部の方にも来ていただき、より実社会に近い課題に取り組んでいます。取り組みの一例を挙げると、奈良市長から「JR奈良駅前の放置自転車問題」という課題をいただき、生徒たちが市長に解決策を提案しました。
国際バカロレアMYP候補校に認定
シナジータイムのような実践的教育の各教科への拡充を考えたとき、世界にはすでに優れたプログラムである国際バカロレアがありました。本校は11歳~16歳を対象とする「ミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)」の候補校に認定され、2年後の正式認定を目指しています。国際バカロレアの「学んだことは社会で生きる」「論理的な思考力を重視する」といった特徴が、本校の取り組みとうまくマッチしたのです。
シナジータイムのような取り組みは客観的評価が難しいという課題がありましたが、国際バカロレアには生徒の実践や思考を客観的に評価する方法が確立されています。MYPの正式認定に先立って、その方法を研究し、各教科へ広げて行きたいと考えています。先生方にも研修を重ねてもらい、新しい授業作りに挑戦しています。
例えば、中1・数学で一次方程式を学ぶ際に、新生児死亡率が高いパキスタンの助産師数と日本のそれとを比べるために方程式を用いた問題を考えた生徒がいました。学んでいるのは単なるxとyではなく、実際の問題解決や人を説得するためのツールだということを授業を通して学ばせているのです。
世界のためにできることを考える
国際バカロレアでは「奉仕」の精神も重要とされます。多感な10代に「世界のために自分ができることは何だろう?」と考えることは、学びのモチベーションを高めます。
今年度は、中1のホームルームの時間を使い、SDGs(国連が示した持続可能な開発目標、グローバルゴールズとも呼ばれる)の中からテーマを選び、9月の文化祭でポスター発表を行いました。生徒たちは中1なりに世の中の問題を考え、自分たちの意見を説得力のあるデータとして表現する習慣を身につけていきます。
また、生徒個人の活動も推進しています。例えば「フードドライブ(賞味期限切れ直前の食品を必要とする福祉施設などに提供する活動)」に共感して、自分で余った食品を集めて、フードドライブを実践している企業に預けるなど、社会に貢献する活動に積極的に取り組んでいる生徒もいます。
大切なのは、ただのボランティア活動で終わらせないことです。自分たちで社会問題について考え、自分たちにできることを企画・実践することで、世の中が有償・無償を含めた人々の貢献から成り立っていると実感として学ぶことができるのです。
人と比べるよりも自分の成長に目を向ける
学校全体を一度に改革するのは簡単ではありません。ですが、誰かが先頭を切って走り出し、方向性を示すことはできます。シナジータイムも中1だけからスタートさせて、翌年には中2でも、さらにその次は中3も、今年からは高校でも取り入れるようになりました。先生方は生徒の成長・変化を感じ取るプロですから、良い方向への変化が起きていると見てとれば賛同してくれます。
生徒の変化は保護者の行動も変えました。以前は、オーストラリア英語研修で保護者が空港まで見送りに来るのが恒例でしたが、生徒がシナジータイムに話し合い「自立が目標なのだから見送りはおかしい」という意見が出て、その年から誰も見送りに来なくなりました。私たちが常識だと思っていることも、考え方一つで変わるのです。
学校での成績も、これまでの通知表では一つの基準のもと1番から60番まで出ます。しかしこれからは、通知表に加え、国際バカロレアの多彩な評価の観点により、人と比べるのではなく、どのような面が成長したのか、今後どのような力が必要なのか、といった多面的な評価が出されることになります。今回の大学入試改革によって、大学もそのような評価を取り入れることになっています。従来型の学力試験が全くなくなるわけではありませんが、今まで一つしかなかった大学へのエレベータが、何機にも増えることになります。
子供が自分で決める環境
私にも娘がいるので、我が子の幸せを願い、将来苦労をさせたくない、という保護者の気持ちはよくわかります。
しかし、人間は一定の困難を乗り越えることで成長するものです。また、いくら保護者が願っても人生で遭遇する全ての困難を避けて通ることはほぼ不可能でしょう。そうである以上、年齢相応の困難に立ち向かう経験を積ませることも教育の重要な役割なのです。
目先のことばかりを考えずに、大学合格よりも先のことを考えた教育と、子供が自分で決めることができる環境を大切にしてください。
私の未来年表 北谷成人
未来への抱負 | 教育・社会の変革 | 現小6 | |
2020年 | IB(MYP)認定校 帰国子女枠入学者10% |
東京オリンピック | 中2 |
2023年 | IB1期生卒業 | 高2 | |
2025年 | 海外大学進学者10% 留学生受け入れ |
大阪万博 新社会人の65%が現在存在しない職業に就く |
大1 |
2029年 | IB1期生大学卒業 | ||
2030年 | 世界のIB校とネットワークでつながり、オンライン授業開始 | SDGs完成年度 | 24歳 |
2033年 | 創立50周年 海外大学との協定・提携 |
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2035年 | 卒業生がIBコーディネータに | 29歳 | |
2040年 | 海外大学進学者30% | 34歳 | |
2045年 | IB拠点校になる | シンギュラリティ | 39歳 |
2050年 | 卒業生が国際的に活躍 | 44歳 | |
2055年 | IB卒業生が学校長に | 49歳 |