地球は100億人を養えるか?
現在(2018年)、世界人口は約76億人ですが、2050年には100億人近くまで増加すると予測されています。農耕が始まる直前(約1万年前)の世界人口は500万~800万人だったわけですから、その後の人口の増え方がいかに急激かよくわかると思います。世界的な生活水準の向上を加味すると、100億人が飢えないようにするためには、2013年の2倍の食料が必要と言われています。
2018年、世界で8億人以上が十分な食料を得ることができませんでした(ユニセフ等「世界の食料安全保障と栄養の現状」)。さらに人口が増えていく未来に、何も対策がなければ世界の飢餓人口も同様に増えてしまいます。世界の全ての人に十分な食料をもたらすためには、フードロスを減らすと同時に、食料の増産が不可欠です。
従来の方法では限界がある農業生産力
しかしながら、世界の土地利用の状況は、植生がある土地の半分近くをすでに農地として使ってしまっていて(NATIONAL GEOGRAPHIC日本版 WEB2019年8月2日記事)、これ以上の農地開発は難しいだけではなく、地球の自律的な回復力を奪ってしまい農業生産力を逆に落としてしまいかねない状況です。
また、農業は人間が使う水全体の9割を使用している(同記事)ため、例え土地利用の問題が解決しても、従来と同じ農法のままでは水が不足するという事態が起こりえます。
さらに、農業は化石燃料も多く消費しています。トラクターなどが使う石油燃料の他、農薬の製造にも化石燃料が必要だからです。土地あたりの収量を増やそうと農法を大規模化すると、この問題が顕在化するのです。
食料を増産しようにも土地が使えない、水が足りない、化石燃料の使用でCO2排出が増えてしまう……。一体どうすれば良いのでしょうか?
解決のためにすぐに使える技術
では、私たちはこのまま飢える人々を見捨てるしかないのでしょうか? もちろん、そんなことはありません。現在、実用化されている解決策や古くからの知恵が、未来の食料事情を改善してくれます。
近年、実用化された有望な解決策としては、野菜工場が挙げられます。これは、新たに農地を確保する必要がなく、ビルの中などに野菜を育てるスペースを作り、紫外線などを太陽光の代わりに、水耕栽培で作物を育てる試みです。
一方、古くからの知恵としては、昆虫食があります。日本でも、かつて肉食が文化的に避けられたため、魚が獲れない内陸部などで発達しました。イナゴや蜂の子などが貴重なタンパク源とされたのです。
世界に目を向けると、タガメ(中国、ベトナミ、タイなど)、カメムシ(メキシコ、南アフリカ共和国など)、ガやカミキリムシの幼虫(世界各地)、チーズダニ(フランス、ドイツ)を食する文化があるように、昆虫食は決して珍しい文化ではありません。
昆虫食の利点は、何と言っても資源の豊富さ、再生産の容易さにあります。昆虫は短期間で増え、他の家畜と比べると少ないエサで育てることができます。
未来に期待される技術
そうは言っても「昆虫はあまり食べたくない。できれば牛や豚の肉がいい」と考えてしまう気持ちは痛いほどわかります。同じ量を生産するために使う農地や排出されるCO2を比べると非効率とは言え、牛肉や豚肉を使った料理も人類の文化であり、財産でもあります。できれば、それらも食卓に並び続ける未来であって欲しいところ。
そこで、期待を集めているのが培養肉の技術です。これは牛などの細胞を培養して肉を作るというものですが、エサや放牧のための農地・水が圧倒的に節約でき、また培養した肉を食べるため、人間の食事のために動物を屠殺する必要も無くなります。すでに実用段階にあり一般販売も間近とされています。あとはコストをどう下げるのかが焦点となっています。
さらにその先には、究極の食糧問題への解決策として分子アセンブラー(万能アセンブラー)という技術があります。これは物質を分子レベルで並べて組み立てる、いわば超高性能3Dプリンターです。ほとんどの食べ物は、炭素、水素、酸素などのありふれた元素から構成されていて、材料自体は地球上にあまねく存在しています。技術的なハードルはまだまだ高いようですが、実現すれば世界の食料問題を一気に解決する潜在力があります。
持続可能性が建前ではなくビジネスに
2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を定めたように、かつては建前、良くても努力目標だった「持続可能な開発」が、現在では、人類の差し迫った問題として、世界の共通課題になりました。今や、持続可能性は、全世界が取り組むべき事業であり、政府や投資家が資金を投じる対象になっています。これまで地球の回復力に頼りっぱなしだった人類が、ようやく自分たちの力でこの問題に対処しようと決めたのです。今、小学校や中学校で学んでいる子供たちの中から、将来、この新しい分野で働く人が現れることでしょう。