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2020.7.3

【トップ校が考えるこれからの学力】
世界の問題を体験的に学び 自ら考え、表現し、行動できる女性を育てる
四天王寺高等学校・中学校 稲葉良一校長

稲葉良一 先生
四天王寺高等学校・中学校 校長
これからの時代には、インプットだけではなく自分で考え、行動することが重要との思いから、文理問わず幅広い国際教養を体験的に学ぶ「英数Sコース」を2021年度に新設する。

四天王寺中学校 新コース制度
https://www.shitennoji.ed.jp/stnnj/course

2020年の小学校から順に、新しい学習指導要領がスタートします。背景にあるのはグローバル化やAIの活用といった世界の急激な変化。このコーナーでは、これらの状況に対してトップ校がどのように考え、どんな教育を展開していくのかを聞いていきます。今回は四天王寺高等学校・中学校の稲葉良一校長。「医志コース」の成果と新たに設けられる「英数Sコース」の目指すところもお聞きしました。

 

世界に横たわる大きな問題に目を向ける

今の生徒たちが社会に出て行く10年後、世界はさらに狭くなっています。それにも関わらず、日本から海外に留学する人の数は少ないままです。留学者数を比べると、中国を100とした場合、韓国が80程度、台湾が60~70程度に対して、日本は一桁しかいません。これからの若者は、もっとグルーバルな視野を持たなければならないのに、日本だけ逆を向いているようです。

留学といっても、海外にただ出て行けば良いわけではありません。世界に横たわる、極度の貧困や難民、食糧の問題など、日本にいるだけでは知ることができない大きな問題の存在を肌で感じて欲しいと思います。これら世界の現実を知らないままでは、社会に出てからも、グローバルな問題を根底から理解することが難しいでしょう。

グローバル時代に、もちろん語学力は必要です。しかし、より大切なのは伝える中身です。そのため、基礎学力や知識の重要性はこれからも変わらないと考えています。

本校では、これまで続けてきた、地道にコツコツと学ぶ習慣や努力を惜しまない学習姿勢を大切にしながら、最新のツールを活用した英語4技能の習得や海外大学生の協力を得て社会問題を探究しています。いわば新旧の学びの「ハイブリッド型」学習です。

 

ハイブリッド型学習を支える最先端の取り組み

英語学習のツールとして教育関係の企業と英語学習用のAI「Torepa」を共同開発しました。文脈まで理解できるAIで、多くの点で、人間の講師の代わりができます。完璧な発音で話し、受講に時間的な制約がありません。生徒にとっても、人間相手ではないので、間違っても恥ずかしくなく、思う存分、会話の練習ができます。

ハーバード大学の学生とともに社会問題を考える「SLICE」プログラムは、高2生の希望者対象に3日間、5~6人のグループで、英語によるクリティカル・シンキングを実践します。当然、日常会話のレベルを遥かに超えて、例えば「複数の急患にどういう順番で治療するのが正しいのか?」などの高度なテーマを議論します。

このレベルの英語が扱えるようになると、海外でディスカッションができるようになります。3日間の締めくくりは、学んだ成果をまとめたプレゼンテーションです。参加前、生徒の多くが不安そうですが、取り組みを終えると、とても自信がついたように感じます。全て英語の3日間に、生徒たちは「とても疲れた」と言いながらも「来年も参加したい」と学びへの意欲を見せてくれます。

イギリスにあるチェルトナム女子校でのプログラムも新設します。本来は今年度からの予定でしたが、新型コロナの影響で、今年は中止になりました。チェルトナムは女子教育のパイオニア津田梅子が、その教育理念に感銘を受け、日本の教育モデルにした学校です。ここの寮に泊まって、歴史や文化を学ぶプログラムに参加します。日本から、このプログラムへの参加を認められているのは4校だけで、関西では本校だけです。

 

ハイレベルな文理融合の新コース「英数Sコース」

今春「医志コース」から一期生が卒業しました。卒業生24人のうち11人が医学部に合格しています。「英数Ⅱコース」からも医学部への進学は相変わらず多いのですが、これからの時代には、文理問わずに、どの分野でも海外に目を向ける必要があると考え、新たなコース「英数Sコース」を設けます。

「英数Sコース」の「S」はSTEAM教育のSを意味します。STEAM教育とはScience、Technology、Engineering、Art、Mathematicsの頭文字で、21世紀に必須の学問分野と言われています。これからの時代、文系であっても科学や技術についての基礎知識は欠かせず、理系に進むにしてもきっちりとした教養を持って文章を読めなければなりません。

新コースでは、文理融合型の教育を進めて、国際的な教養を身につける体験型学習を多く取り入れます。そして、自ら考え、表現して、行動できる女性を育てます。進路指導でも、早い段階から海外大学も選択肢にあることを示しながら、生徒が自分の将来をより広く考えられるようにしていきます。

 

環境が整えば生徒は自ら学び出す

来年度から中学校で新しい学習指導要領が施行されます。探究学習の位置付けなど、不透明感が残っていて、実際に始まってみないとわからない部分が多くあります。そのような状況ながら、新しい学びをどう取り入れていくのか、研究を進めながら備えているところです。

授業の中で生徒が発表する機会が増えています。中3での平和教育や中2での校外学習のアイデアコンペで生徒たちは自分の考えをうまく伝えるプレゼンテーションに取り組みます。校外学習のプランを生徒に考えさせると、遊びばかりになってしまうのではと心配する声もありましたが、全くそんなことはなく、要所要所で学びにつながるような優れたアイデアをたくさん出してくれました。

自分たちで考えて、発表することが楽しかったようで、生徒たちから「またやりたい」という声を聞きます。しかるべき環境を整えれば、生徒たちは自ら学び始めるのです。

本校では、以前から、実験結果を発表する授業や、主体的な学びにつながる授業に取り組んできました。海外研修などは30年も前から行なっています。新学習指導要領の目玉とされるアクティブ・ラーニングの考え方も「すでにやっていること」と感じています。従来と違うのはICTが高度化してきたことです。アクティブ・ラーニングがずっとやりやすくなり、授業の可能性が広がっています。

小学生から高校生ぐらいの期間は、自我に目覚めて、自己形成をする大切な時期です。知識の吸収力が最も強い時期であると同時に、周囲からの影響も受けやすい。この時期にしっかりとした学習習慣を身につけることはとても重要です。知識を覚えるだけでは不十分で、幅広い経験を積むことで、発想力や問題解決力が大きく成長します。

この時期の子どもたちには、興味を持ったことはどんどんやらせてもらいたいと思います。入試ですぐに役立つものではありませんが、その子の人生で、困った時のヒントになったり、苦しい時の心の支えになったりするのは、こういう経験です。目先の受験だけにとらわれず、長い目で見た教育を考えてあげてください。

 

進学館

 

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