MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノカダイ

2018.4.3

次世代エネルギー利用に向けた世界初の取り組み

水素スマートシティ神戸構想

今の世界には地球規模のさまざまな課題がある。今から解決方法を考えていかなければ未来に深刻な影響をもたらすだろう。「ミライノカダイ」では、世界が将来直面する課題と、その解決に向かって取り組んでいる方々を紹介する。第一回はエネルギー問題。神戸市で取り組まれている水素エネルギー利用についての世界初の実証実験について紹介しよう。

 

 未来のエネルギーを考えて

現代の社会は石油などの化石燃料のエネルギーに頼っている。太陽光発電のような再生可能エネルギーも増えてきたが、まだまだ持ち運べたり貯蔵できたりという便利さでは化石燃料にかなわない。しかし、化石燃料を使い続けることにはさまざまな問題点がある。温室効果ガスが出てしまうこと、大気や海を汚染してしまうこと、そして何より、埋蔵量に限りがあり、ずっと使い続けることができないことだ。

温室効果ガスを出さないエネルギーとして期待されていた原子力も、災害に弱いことや発電で生じる「核のゴミ」が深刻な環境汚染をもたらす恐れがあり、将来ずっと使い続けるものとは考えにくい。

そこで、次世代のエネルギーとして期待されるのが水素だ。水素は、燃やしても水しか出ないため、とても環境に優しい。太陽光や風力発電などと組み合わせて理想のエコ・エネルギーになる未来のエネルギーの有力候補だ。

 

世界初の神戸市の取り組み

日本は、トヨタ自動車などの自動車メーカーが水素燃料電池自動車(FCV)を開発・販売するなど、水素を使ったエネルギー技術で世界をリードしている。そこで、世界に先駆けて水素エネルギー社会を作り上げれば、将来、世界中が日本をお手本とするようになるかもしれない。

神戸市は、そのための取り組みをスタートさせた。「水素スマートシティ神戸構想」というプロジェクトで、水素エネルギーの利用を進めようとしている。

「神戸市は自然豊かな都市です。この優れた自然環境を未来へつないでいきたいという思いから、環境に関して積極的に取り組んできました。それが今回の『水素スマートシティ神戸構想』でも生かされています」

水素エネルギープロジェクトの市の担当者はそう話す。「水素スマートシティ神戸構想」では、将来を見据えた大規模な水素利用の先駆けとなる取り組みとして2つの実証実験、FCVの普及が進められている。

実証実験の一つは、ポートアイランドに設置した水素CGS(コージェネレーションシステム)で作られる電気と熱を市街地の施設に供給する実証※1、もう一つは、海外で製造した液化水素を船で運んで来て、神戸空港島で荷揚げする実証※2だ。いずれも世界初の実証実験となる。

 

※1 水素CGS活用スマートコミュニティ技術開発事業(NEDO助成事業名称)

  実施主体:株式会社大林組、川崎重工業株式会社

※2 未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業(NEDO助成事業名称)

   実施主体:技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)

  (岩谷産業株式会社、川崎重工業株式会社、シェルジャパン株式会社、電源開発株式会社の4社で構成)

 

水素エネルギーの拠点に

実証実験の進み具合はそれぞれ次の通りだ。

現在、ポートアイランドにある水素CGSで作られた電気と熱は、近隣の公共施設(スポーツセンター、国際展示場、中央市民病院、下水処理場)への供給を開始しており、今後は実証運転を行いながら電気と熱の供給を行う予定。


水素により電気と熱を発生する水素CGS(コージェネレーションシステム)

 

水素の運搬・荷揚げの実証は2020年の実証運転を目指している。オーストラリアにある有効に使われていない褐炭(かったん)から水素を取り出し、それを日本まで運ぶという大掛かりな実証で、成功すれば世界初の快挙となる。安全に安定的に海外から水素を運べることが実証されれば、化石燃料に代わる次世代エネルギーとしての一歩を進めることになる。

「空港島が単なる実証の水素燃料の荷揚げ基地ではなく、関連する企業や研究施設が集まり、水素エネルギー産業の拠点になることを期待しています」と市の担当者は話す。


神戸を次世代エネルギーの拠点に

 

FCVと水素ステーション

また、FCVの利用促進については、市の公用車として2台のFCVを導入し、市内に2カ所の水素ステーションが稼動している。

一つは、兵庫区七宮町に市内初となる商用水素ステーション「神戸七宮水素ステーション」(日本エア・リキード株式会社)が開所している。このステーションの特徴はコンパクトな造りであることだ。都市型水素ステーションのあり方を考えるモデルとなる。

もう一つは、西区にあるこうべ環境未来館に設置された「こうべ再エネ水素ステーション」。太陽光・風力発電で作られた電力によって水素を作り、それをFCVに供給する。太陽光や風力発電で作られたエネルギーを水素の形で貯めておけば、発電量が一定ではないという弱点を補うことができる。未来の理想のエコ・エネルギーだ。

神戸市の目標では、2030年までに合計7カ所の水素ステーションを設置することになっている。

「日本はエネルギーを自給できず他国に頼っています。今のまま何もしなければ、環境を破壊しない、環境に優しい持続可能な社会を作っていくことは難しいでしょう。未来のエネルギーを選び、使っていくことになる皆さんに、水素などの次世代エネルギーについてよく知ってもらいたいと思います」

子供たちへのメッセージをお願いすると市の担当者はそう話してくれた。

こうべ環境未来館では、神戸市の環境への取り組みが展示・説明されている。「こうべ再エネ水素ステーション」の実物も見ることができる。自由研究の題材として、環境学習の一環として、訪れてみてはいかがだろう?


太陽光・風力で水素を作る「こうべ再エネ水素ステーション」(こうべ環境未来館に併設)

 

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