汎用目的技術(GPT)が引き起こす産業革命
駒沢大学の井上智洋博士は『人工知能と経済の未来』(文春新書)の中で、産業革命とは汎用目的技術(GPT,General Purpose Technology)の拡散・普及によって起きるものだと指摘しています。
十八世紀の産業革命では蒸気機関がGPTでした。その応用として、力織機や蒸気船、蒸気機関車などが発明され、製造のあり方や人の移動を一変させました。
第二次産業革命では、電気モーターと内燃機関(ガソリンエンジンなど)が、第三次では、コンピューターとインターネットが、それぞれGPTに該当します。
たとえ、コンピューターとインターネットが発明されても、それだけでは、社会はほとんど変わりません。世の中が革命的に変わったのは、瞬時にメッセージをやり取りしたり、多くの人と意見を交換したり、居ながらにして世界中の情報を検索できたり、買い物やホテル・飛行機の予約ができたり、銀行口座からお金を振り込んだり、地図を見たり……といったコンピューターとインターネットを応用した便利なツールが次々に生まれ、それが生活のあり方を変えたことによります。
現在、私たちは第四次産業革命の入り口にいると言われています。本格的な産業の変革は2030年ごろ。GPTに当たるのは、汎用AI、IoT(モノのインターネット)、3Dプリンタなどになると考えられています。
2015年、Google DeepMindが開発した「アルファ碁」が囲碁でプロ棋士に勝利して話題となりました。囲碁は、チェスや将棋と比べて指し手の選択肢が多いとはいえ、チェスや将棋と同じ盤上のゲームで、コンピューターの勝利は時間の問題ではありました※。ここで重要なのはアルファ碁の勝利自体ではなく、そのベースとなったAI技術(深層学習)が実用的に応用され得ると示されたことです。
最新のスマートフォンには、ニューラルエンジンと呼ばれる深層学習を効率よく処理できるチップが積まれています。近い将来、私たちは深層学習を応用したAIアプリをいくつも持ち歩くようになるでしょう。
※2018年6月、IBMのAI「Project Debater」は事前に知らされていないテーマについてのディベートで、イスラエルのチャンピオンに勝利した。
グローバルとAIが手を携えてやって来る
第二次産業革命では、自動車が普及するのと前後して、私たちは人力車や馬車を使うのをやめていきました。第三次産業革命では、さらに多くの職業に影響が出ました。第四次産業革命でも同じことが起きるのでしょうか?
2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が「雇用の未来」という論文の中で「10年後になくなる仕事」の確率を予想しました。高い確率でコンピューターに取って代わられるのは、簿記や会計担当者、レジ係、一般事務員、タクシー・地下鉄の運転手、となっています。
また、2015年に野村総研は、10年後~20年後には、国内労働人口の49%に当たる職業について、AIやロボットで代替される可能性が高いという推計を発表しています。
私たちはAIの開発・導入を止めるべきでしょうか。技術の進展を止めることは、自分の首を絞める行為になってしまうのであまり良い考えとは言えません。グローバルな世界では、必ずどこかの国が技術を進めるからです。
出来杉よりのび太になれ
ここにこそ、教育の役割があります。第四次産業革命以後を生きる子供たちには「学力観の改革」が必要なのです。どのような学力観なのか、その良いヒントを人気アニメ『ドラえもん』が教えてくれました。
22世紀からやって来た子守ロボットのドラえもんは、ポケットから様々な未来の道具を出して、主人公のび太を巻き込んだ騒動を起こしたり、人助けをしたりします。のび太は未来の道具に対して常に興味津々で、遊んだり、楽をしたり、時にはお金を稼いだりする応用を思いつきます。反面、彼は学校の勉強が苦手です。のび太のライバルである出来杉は、学校の成績こそ優秀ながら、既存の常識や倫理観にとらわれ、未来の道具に対しては保守的です。
従来の評価基準では、圧倒的に出来杉が優秀でした。しかし、これからは違ってきます。
例えば、アイデアさえ出せば、AIアプリが設計図を作り、3Dプリンタが家の一室を瞬時に工場に変えます。梱包や配送のコストも劇的に下がっていることでしょう。それらを手の平の上のAIがほとんど処理してくれるのです。望めば誰でもメーカーになれるのです。同じように、誰でもクリエイター、アーティスト、デザイナーになることができます。
これからの時代に活躍するのは、新しい道具を面白がったり、新しい道具で世の中を変えようとする、のび太のような人ではないでしょうか。
みなさんの未来は、まさに創造力とアイデアで作ることができるのです。第四次産業革命の行く先はまだ決まっていません。人類は幸福にもなれるし、不幸に陥いる可能性もあります。それを左右するのは子供たちの頭の中。まだ見ぬ世界を作る子供たちに、今日の教育が鍵を握っているのです。