ICTが学校にもたらす変化は、板書の不要などの外面的なものだけではない。2015年からICT教育推進プロジェクトに取り組む常翔学園中学校・高等学校、教頭の田代浩和先生に、ICT導入がもたらすより重要な変化についてお話いただいた。
「本校では2015年にICT教育推進プロジェクトを立ち上げました。当初から”検討委員会”ではなく、”推進プロジェクト”だったのは、ICTツールの教育への活用が世界的にはすでに当たり前のことであり、これらのツールを使えることは今後の必須スキルでもあるからです。」
そう話す田代先生自身も、他校教師の「大学進学指導にSNSを使う時代がすぐにやって来る」という言葉がきっかけで、それまで使っていなかったSNSを勉強し始めたと言う。大学生の就職活動では、すでにSNSが活用されている。それが大学入試まで降りて来るのは時間の問題だ。
「タブレット端末の導入前は、校内インフラ整備や生徒のルール・マナーを主な課題だと考え、重点的に議論しました。しかし、実際に導入してみると、最も大きな課題は『授業をどう変えるのか』ということだとわかりました。黒板とチョークでもできる授業をICTで行ってもあまり意味がありません。」
ルールについては、中学校と高校とで異なる扱いとした。中学校ではネット利用に不慣れな生徒もいる。普段はロッカーに保管し、授業で使う時だけ取り出す。中1の一学期はカメラ機能も制限して、まずは情報倫理をしっかりと学ぶ。一方で、高校では、より自由に使えるように、最低限のルールだけ定めている。ここでは生徒のタブレットを管理するMDM※が非常に役に立っている。
※MDM:Mobile Device Management
「ICTツールの導入によって、多くの先生が授業の効率が良くなったと感じているようです。しかし、最も大きな変化は、学びのスタイルが広がったことにあります。知識を一方的に伝える授業から、学習者中心のアクティブ・ラーニングへの移行が起きています。」
学習スタイルの変化の一つとして、次回の授業のために解説動画を予め配信しておき、クラス全員が予備知識を持った状態で授業に臨む、いわゆる反転学習を実践する教師もいる。それにより、単に講義を聞くだけの授業ではなく、考えたり、議論したり、発表したりする授業が展開される。
「学習者中心の授業が定着するにつれ、積極的に行動する生徒が目に見えて増えました。発表会などを生徒が自分たちで企画して、自分たちで運営することが以前より高いレベルでできています。自分たちで考えて、調べて、発表する学びは、生徒にとっても楽しいようで、クラス対抗の校内発表会はとても盛り上がります。」
同校では、クエストエデュケーションの校内発表会やガリレオプランのJOSHOサイエンスフェアなど、生徒自ら考え、調べ、発表する取り組みが多数用意されている。その探究的な学習にタブレット端末は大活躍する。
「環境さえ整えれば、生徒たちは自分たちの学びたいことを見つけ出し、楽しんで学ぶことが出来るのです。先日、他校から多数の先生方がガリレオプランの視察に訪れましたが、準備時間などない中で、生徒たちはすすんでポスター発表を再現してくれました。」
生徒が「やらされている勉強」と感じているならば、ここまで積極的にはなれないだろう。「自分たちの考え」「自分たちの作品」という思いは、強い学びの動機になる。今まさに教育現場は変わろうとしている。保護者の心構えはどうあるべきか。田代先生にたずねてみた。
「教育学者・哲学者のジョン・デューイは『もし私たちが生徒に昨日と同じように今日も教えるならば、私たちは子供たちの未来を奪っているのです』と言いました。従来の古い価値観で見ると、タブレットやスマホを使うのは、遊んでいるように見えるかもしれません。さらに、最近の学習には、一見すると遊びと見分けがつかないものもあります。たとえ遊んでいるだけであっても、ICTツールを使いこなし、プログラミング思考を磨くことは、将来の仕事に少なからず役に立つはずです。難関大学に合格するよりも子供の将来にとって価値があるかもしれません。子供を信じて見守ってあげてください。」
同校は、タブレット導入当初こそ貸し出し制としていたが、2017年度より一人一台へと切り替え、2019年度の新入生をもって、全校一人一台が揃う完成年度を迎える。加えて、新しい時代の教育を作っていく部署「教育イノベーションセンター」が設立され、田代先生が初代センター長に就任する。どのような教育のイノベーションが発信されるのか、今後の常翔学園に期待がますます膨らむ。