近年、学習効果が広く認められている探究学習。帝塚山学院中学校高等学校では10年以上も前から独自の「創究講座」として取り入れてきた。誰もが新しいスタイルの学習で成果を上げられるように基礎スキルから身につけることが特徴だ。先行的な取り組みからは見習うべき点が多い。筒井規子副校長にお話を伺った。
探究学習を基礎の基礎から
「創究講座」は、中学校での「創究基礎」と高校での「創究講座」がある6学年にわたるカリキュラム。毎週2時間、通年あるいは前期・後期に分けて実施する。まず注目したいのは中学校での基礎スキルを身につける授業だ。筒井副校長は次のように話す。
「中学校に入学して、いきなり発表やディスカッションは難易度が高いと考えました。中1では、人前では緊張して声を出せない生徒もいます。」
そこで「創究基礎」では、探究学習に必須の14のスキルを学ぶ。中1での「声を出そう」「辞書やインターネットを活用しよう」「わかりやすく説明しよう」といった、調べ方、発表の仕方の基礎となるスキルから始めて、中3では「ディベートをしよう」「レポートを発表しよう」という本格的な探究学習に発展する。
「入学前に『うちの子には無理ではないか』と心配する保護者もいますが、基礎となるスキルから徐々に積み上げていく本校の方針を説明すると『ぜひ学ばせたい授業』とおっしゃいます」と副校長。
楽しみながら磨かれる基礎知識・論理力
「創究講座」の原点は、創立以来の教育理念「自学主義」にある。卒業レポートの作成は昭和42年から続く伝統の取り組みだ。プレゼンテーションは学期ごとに行い、説明力を伸ばすのに欠かせない発表の場数を重ねていく。
「女子生徒は特に、友達と一緒に考え、一緒に何かを作るペアワークで力を発揮します。ディベートでは、学んだ知識を総動員して友達をどう説得しようか、あれこれ考えることで学びへのスイッチが入るのです。議論の間に意見が大きく変わり、意見の割合をリアルタイムに棒グラフで表示する『クリッカー』を使うと、とても盛り上がります」と筒井副校長がディベートの様子を説明する。
よく言われることだが、集団で高め合う学びは、女子教育との相性が良い。中でも、お互いの意見を伝え合う力は、これからの時代の課題解決に必須の能力になっていく。筒井先生が続けて言う。
「生徒たちはディベートを楽しみながら、基礎知識を習得し、論理立てて説明する力を伸ばしています。これからの時代、コミュニケーションが生み出す価値はますます高まります。そういう時代にフィットした学び方だと感じます。」
社会から必要とされる個性
高校「創究講座」では9つの学問分野から選んで学ぶ。専門的な内容が多いため、外部の講師や企業の人など、社会と接する機会が多くなる。たとえば「現代ビジネスⅠ」ではマーケティングや経理、商品開発を学ぶ。グループに分かれて、それぞれを一つの企業に見立てて、生徒個々に担当業務を決める実践的な授業だ。実際に、近所のベーカリーと協力して新商品を開発したり、校章入りの靴下をデザインしたりという実践を行なった。
「大学入試の面接で、何を学びたいかと質問されて、創究でやったことを話すことができた、という卒業生や、就職面接で『高校時代からビジネスに興味があった』と話して注目してもらえた、という卒業生もいました。ほとんどの卒業生が創究講座をやっていて良かったと話してくれます。」
大学進学以降、社会と関わった経験や日々考える姿勢は大きな違いを生み出す。たとえば、大学で発表の機会があれば、中高での経験を買われて中心的な役割を任される。関学コースでは、関西学院大学主催のビジネスプラン・コンテストで毎年のように受賞。ヴェルジェコースでは、模擬国連に参加して英語でプレゼンテーションをした生徒もいた。これらの成果からAO入試や公募制推薦で有利になる場合は多い。だが、目指す本来のゴールはそこではない。
「一人ひとりの好きなことが社会につながって、いずれは興味関心のある分野で社会から必要とされる。そのための学びだと考えています」と筒井副校長が本来の意義を教えてくれた。
「創究講座」の根底にあるのは、生徒の個性を尊重する校風だ。誰もが好きなことに打ち込めて、どこかに必ず居場所を見つけられる学校。近年の人気高騰は「関学コース」の人気だけではない。生徒の個性は未来に輝く原石なのだと信じて、教員総出で伸ばそうとする。この意識と姿勢が多くの家庭に支持されている。