グローバル化の進展により、将来の進路や働き方も日本国内に狭める必然性は下がっている。これからは、世界で学び、世界で働くことが一層当たり前になってくるだろう。国際バカロレア(IB)ディプロマプログラム(DP)は国際的に認められる大学入学資格。その資格を取得できる大阪女学院高校「国際バカロレアコース」では、生徒たちが世界の大学を視野に入れた進路を考えている。同校IBコーディネーターの鍵村信正先生にお話をうかがった。
日本に収まりきらない好奇心
大阪女学院高校の国際バカロレア(IB)コースは開設してもうすぐ3年、この4月に一期生が高校3年生になる。15名定員に対して、一期生は9名。うち6人の生徒が海外大学への進学を希望しているという。鍵村先生は次のように話す。
「生徒たちは日本国内に収まらない好奇心を持っていて、グローバルな課題に関わっていくような将来像を描いています。例えば、一人の生徒はカナダと日本との架け橋になりたいという目標を持ち、またある生徒は、地球環境の問題に関わりたいと希望を語っています。」
もともとIBは、国際公務員など国境に関係なく働く家庭の子供が、どこの国に住んでいても高い水準の教育を受けて、同じ基準で学力を評価されるように設計された制度だ。必然的に、世界平和の実現や文化を超えて協調ができる人物像が教育目標となる。同校のIBコースでもその理念は同じで、生徒の目線は日々の学びを通して自然と世界へと向かう。
「学校として海外大学への進学を無理に勧めてはいません。ただ、IBの資格を高く評価するのは海外の大学です。最終試験の結果は公表されるので、優秀なスコアの生徒には海外の大学から奨学金付きでオファーが来ることもあります。国内の大学ではAPUやICU、上智大学などが比較的IBを高く評価してくれます。」
日本の大学はまだまだIBへの理解度が十分とは言えない。それでも、IBコースを修了した実績はAO入試(総合型選抜)で大きなメリットになる。日本でまだ50校程度しかない希少性に加えて、問いを立てること、グループをまとめること、工夫してわかりやすく発表すること、といったスキルを身につけているIBの卒業生は、大学の教育現場から見ても喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。
「授業でも、よく質問が飛び交い、一つの問題に多面的な意見が出ます。クラスの運営などで手伝って欲しい時には、声をかけると必ず誰か手が挙がります。教師とのコミュニケーションがよく取れていて、何かに関わろうとする意欲が優れているように思います。人前で話すことにも慣れていて、学校説明会で自らIBの良さを伝えたいと志願する生徒もいます。」
IB生の大学受験スケジュール
IBの最終試験は高校3年の11月に実施される。そのスコアを見た上で、1月ごろに海外大学に出願するのだが、奨学金は先着順の場合もあり、素早い決断が必要な場合もある。最終試験のスコアを持っていれば合否はすぐに判明する。スコアが十分であれば9月に入学できる。スコアが足りない場合も、1年間のファウンデーション(基礎)コースを経れば入学が認められる大学もある。
「IBコースは、EE(課題論文)やCAS(奉仕活動)に加えて、例えば文学(国語)であれば2年間で13冊を精読し、ディスカッションするなど課題が多くあります。そのため、日本の大学の一般受験と両立させるのは難しいかもしれません。しかし、IBで身に付く物事の見方・考え方は、これからの時代に圧倒的に役立つものです。」
我が子の進路は世界に
海外大学を希望する生徒の保護者は、仕事で世界経済の現実と直面している。保護者懇談会である父親は「日本は人口減少で内需が細っていく。これからは国内だけを見ていても勝負にならない。我が子は世界で活躍して欲しい」と厳しい現状認識を示したという。
「大阪府の一条校でIBが取得できるのは、本校と水都国際の2校だけです。世界では高く評価されているIBを日本にも浸透させるには、IB校がもっと増えて欲しいと考えています。本校は西日本のIB校の基幹校として、教師向けの研修会を開くなど、IBの普及にも尽力しています。」
まだ進学実績のない同校IBコースだが、優秀な生徒が多く、鍵村先生も来年の合格実績が楽しみだと手応えを感じている。在校生の志望大学にはメルボルン大学(オーストラリア THE世界大学ランキング2020で32位※東京大学は36位)やタリン大学(エストニア 同801-1000位※千葉大学や岡山大学と同ランク)といった名前が挙がる。どの大学に進むのか、そしてその後、いかに世界で活躍していくのか、同校から世界に羽ばたく彼女たちの未来に期待したい。