近年、海外大学を志す生徒は増加したが、進路指導はまだ十分整備されていない。結局、生徒個々の意欲や個別の教員の能力に依存するところが大きい。今回紹介する京都学園中学校・高等学校には、学校を挙げて海外進学をサポートする体制がある。国際部 部長の橋本千佳先生にお話を伺った。
グローバルマインドの素地を中高で
「今の生徒の多くは将来、世界の人々と関わり合いながら生きていくことになります。そのため、私たちも国境を超えて、生徒の進路を考える必要があります。英語力だけではなく、変化の激しい時代に臆せず挑戦する勇気や、興味を持ったことに飛び込む積極性が、これからの時代、幸せに生きていく力になると考えています。」
京都学園が「グローバルマインドの養成」に力を入れる背景について、橋本先生はそう説明する。同校のグローバル教育は、8つのスキル(8 KOA Global Skills)の習得を柱とする。英語はそのうちの一つだが、それ以外の7つ「批判的思考」「コラボレーションとリーダーシップ」「俊敏性と適応力」「起業家精神」「コミュニケーション力」「情報アクセス力と分析力」「好奇心と想像力」も同じように重要なのだ。
「日々の教科を通して、これらのスキルを高めていて、その集大成となるのが『課題研究』です。課題研究の成果は、学内外へ向けて発表していきます。さらに、ベトナム、フィリピン、ヨーロッパの提携教育機関でも発表し、現地の学生・生徒、教員と意見を交換します。現地の人たちのニーズを感じ取り、大学教授やグローバル企業、元国連職員の方々からアドバイスをもらいます。そして、ソーシャルビジネスや国際開発協力モデルの視点を加え、学内外に発信し、最終的には卒業論文へとまとめていきます。」
課題研究活動の目に見える成果としては、「教育支援」や「給食支援」などのボランティア活動、社会貢献活動に多くの生徒が参加したり、外部の「ビジネスコンペ」や「課題研究発表会」などに積極的に参加し受賞したりしている。
「2015年よりアジア・アフリカの飢餓や栄養失調で苦しんでいる子供たちへの支援を目的とし、NPO法人Table For Two International(TFT)の活動を発信・展開してきました。その功績が認められて、2019年には、正式にTFTアンバサダー校に就任しています。生徒たちは、勉強への集中力、部活動に必要なエネルギーの提供をコンセプトに、学内の食堂にTFTヘルシーメニュー※1を導入したり、イギリス、カナダ、スウェーデン、日本の4カ国で『おにぎり』を通じてアフリカ・アジアの子供たちに給食を届ける取り組み『おにぎりアクション』を開催したりしてきました。」
※1 TFTが定めるカロリー基準を満たすヘルシーメニューの1食につき20円が、アジア、アフリカの飢餓に苦しむ子供たちの学校給食に寄付される。
世界に触れる中で芽生える意識
同校とフィリピンにある提携校Saint Pedro Poveda Collegeとの共同行事として「スーパーグローバル コングレス」という取り組みも行なっている。グローバル・シミュレーション・ゲーミングという国際会議を題材にした学びだ。
「模擬国連とよく似た取り組みですが、違いは各国代表役だけではなく、企業やNGO、国際機関、メディアなどの役もあります。生徒がそれぞれの役割を担当して、世界が抱える課題について、現実に近い国際交渉を疑似体験します。」
このような取り組みのベースには、世界に広がる提携校の存在があり、海外留学・海外研修も充実している。中高一貫生においては6年間で少なくとも2回は海外を体験する。中3全員参加の2週間のカナダ研修、選抜参加のスウェーデン研修、高校では10ヶ月または7ヶ月のカナダ、イギリス留学(国際コース)や3週間のイギリス研修(特進ADVANCEDコース)、1週間のアメリカ研修(特進BASICコース・進学コース)、長期休暇を利用した海外研修(全コース・約2週間)など多彩なプログラムがある。
海外大学合格者が大きく増加
これらの取り組みの結果として、海外大学合格者が増えている。以前は、年度によってまちまちだった海外大学志望が、近年はコンスタントに現れるようになった。
「本校には国際部という部門があり、留学を経験した教員やネイティブ教員が多数いるので、生徒の学びたいことに合う大学を世界各国から選び出して勧めることができます。それぞれの国で異なる入試制度や奨学金の条件などにも対応しやすいのが強みです。」
近年の主な実績としては、シンガポール国立大学・Yale-NUS College(シンガポール、THE世界大学ランキング2020で25位、アジア1位)、University of Tronto(カナダ、18位)、University of British Columbia(カナダ、34位)、The University of Manchester(イギリス、55位)、Leiden University(オランダ、67位)などが挙げられる。ちなみに同じランキングで東京大学は36位、京都大学は65位だった。
最後に橋本先生に、海外に興味がある生徒へのアドバイスをいただいた。
「海外にはいつでも行ける時代になりました。ただ、思い立った時に躊躇せずに行ける自信は必要です。そのためにも普段からオープンマインドで視野を広げて、興味関心のアンテナを張って、いろいろなことに挑戦できる人であってほしい。人や学びとの出会いを大切にしながら、多少打たれても一歩前に進む気持ちを持ってください。」