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2020.10.16

学問も職業も家庭も 自分の未来を自分で見つけるキャリア教育
神戸海星女子学院中学校・高等学校(兵庫県 女子校)

 

AIのさらなる高度化が予想される中、生徒の将来のキャリアを考えることは年々難しく、それゆえにキャリア教育は年々重要度を増している。今回は、大学合格をゴールではなくスタート地点と考えて、将来の職業や家庭の構築まで見据える神戸海星女子学院中高のキャリア教育を紹介する。教頭・野手数弘先生、進路指導部長・斎藤亘先生に聞いた。

教育は将来までずっとつながっていく

「中学校に入学したばかりの生徒の多くは、まだ将来の進路についてはっきりとした考えを持っていません。中学1年、2年の時期は、どんなものが好きで、興味があるのはどんな分野なのか、自分の能力を活かせるのはどの分野なのか、しっかりと見つめることが重要です。」

斎藤先生がそう切り出した。同校のキャリア教育は、中1で「自分を見つめる」ことから始まる。中3での企業訪問では、日本銀行、三井住友銀行、竹中工務店といった日本の中枢を担う企業を見学して、そこで学んだことを班に分かれて発表し、その後の職業調べにつなげる。

「生徒は医師、教師、弁護士などドラマで描かれている職業はよく知っているものの、それ以外の職業はあまり知りません。この取り組みを通して、例えば、書籍一つ作るにしても、紙を作る仕事、文章を書く仕事、絵を描く仕事と多くの仕事が関わっているということを理解していきます。」

この取り組みのベースにあるのは、同校の「大学合格はスタート」という考え方だ。生徒の人生は、大学を卒業してからの方が長く、仕事はもちろん、家庭を築くこと、母親になることなど、多くのことが待っている。教育はその時々にまでずっとつながっていくものだという。

 

世界の現実にショックを受ける

中3の6月には、ケニア在住で、同国でマゴソスクールを主宰するフリーライターの早川千晶氏の講演を聞く。この学校はナイロビ最大級のスラム街にあり、孤児やストリートチルドレン、貧困児童のための教育を実践している。

「逆境の中で支援を続ける早川さんや現地の子どもたちの頑張っている様子を知って、多くの生徒が刺激を受け、発奮します。『国境なき医師団に入る』と懸命に勉強に取り組み、現役で国立大学の医学部に合格した卒業生や、中3の春休みに一人で現地に行った生徒もいました。」

春休みに現地に行ったという生徒は、卒業後、教師になり、今は同校で教鞭を執っている。他にも多くの生徒が影響を受けて、それまでの自分の生き方を見つめ直すそうだ。

 

将来の姿をイメージ

進学校として「大学とはどういうところか」を生徒に伝えることも重要な取り組みだ。高1・2では、近隣にある神戸大学の9つの学部からそれぞれ教員に来てもらい、出張授業を開講する。

「表面的な学部紹介ではなく、その先生が実際に大学で行なっている講義の高校生向け版をしてもらっています。大学では実際にこんな講義を受けるのだ、ということを体験してもらいたいからです。」

出張授業の様子

中3から高2の希望者を対象に、様々な大学からの出張授業も開講している。人気があるのは、医学部、薬学部。中3生は3分の1以上の生徒が希望するという。他にも、近隣の病院での医師体験や看護体験、薬剤師体験も実施。卒業生による進路ガイダンスも生徒の進路選択に大いに役立っている。

「20代から30代の卒業生約30人に来てもらい、高1・2を対象に、小グループで話をしてもらいます。卒業生は職業人であると同時に母親でもある場合が多く、大学での学びに加えて、大学卒業後にどんな人生を歩んで来たのかを成功・失敗交えて話してもらっています。社会に出てからの女性の生き方を先輩から学ぶ価値ある機会になっています。」

卒業生には、医師やテレビ局員、新聞記者、公務員などの職業人だけではなく、家庭に入っている人もいる。毎年異なる卒業生に声をかけているが、10年続けて話しに来てくれる卒業生もいるという。

卒業生による進路ガイダンス

 

こじんまりとした人にしたくない

今の中1生が社会に出る10年後、AIはより高度化しているだろう。だからこそ中高でのキャリア教育はより重要度を増す。最後に野手先生に、新しい時代のキャリア教育像をたずねた。

「生徒には、自分にしかできないことを見つけてもらいたいと考えています。そのためにも自身の能力や適性をはっきりと理解して、どのように世の中の役に立つのかの見通しを持って欲しい。中高で型にはめてこじんまりとした人を育てることは本校の目指すところではありません。様々な体験を基にして、自分で考えて将来を設計できる力――本当の意味での学力を育てたい。」

言い換えると「これができる・したい」が内から湧き上がることが本当の学力であり、それが学問・研究と組み合わさって、AIに負けない人に成長するということだ。AIがいくら高度化しても意欲や発想は最後まで人間のものなのだ。

「本校の卒業生は、大学進学後も目標を失わず、活発で生き生きとしています。偏差値だけで進路の指導をせず、本人のやりたいこと、行きたいところを可能な限り尊重しています。だから、大学でいいスタートが切れるのだと思います。」

目先の合格実績よりも、長い目で見た生徒の意欲を育む。AI時代を迎えて、キャリア教育は教育の王道へ回帰していくのかもしれない。

 

進学館

 

神戸海星女子学院中学校・高等学校
https://www.kobekaisei.ed.jp/jr-high/
神戸市灘区青谷町2-7-1 TEL 078-801-5601(代表)

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