MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビTOPICS

2021.3.19

私たちが海外進学をすすめる理由
第2回 海外大学受験へのハードル

 

近年、進学校でも進路として関心が高まっている海外大学。ただ、まだまだハードルが高いと考えている家庭が多いのではないでしょうか? 本連載では、日本の高校から米国・ニューヨーク州の名門コロンビア大学に進学し、高校生の海外進学を支援する活動に取り組む田中祐太朗さん、李卓衍さんに海外進学の実際をお聞きします。

 

Q. 海外大学への手続きや入試対策で困ったことは?

田中:最も困ったのは、新入生向けのオリエンテーションの当日までコロンビア大学にはおろか、アメリカに行ったことがなかったことです。右も左もわからぬまま、大学入学まで突っ走りました。今思えば非常にリスクの高いことをしていたと思います(笑)。ただ、たっぷり時間を使い、YouTubeの動画や大学のホームページ等から情報収集をできる限り行い、自分がどこに進学したいのかを深く考えることで、いい選択ができたと思います。

李:私は、現地に足を運んで見学した上で進学先を決定しました。5月に各大学で開催される合格者向けイベントに参加するために1人での渡米を決意しました。東はニューヨーク、南はテキサス、そして西はカリフォルニア州にある大学を巡り、学生との交流を通して各大学のカルチャーの違いを実感しました。しかし、アメリカでは18歳以下の単独でのホテル泊は禁止されているため、ユースホステルを利用したり、事前に現地の人と連絡をとって泊めてもらったり、大学を見学するだけでも苦労しました。

 

Q. 日本の大学受験との大きな違い

田中:日本の大学受験との一番の違いは、アメリカの大学の「全人的入試」にあると思います。「海外の大学」といっても、英国やカナダ、欧州の大学は日本の一般入試と同様に、学力試験で合否が決まるのに対し、アメリカの大学では学校の成績や学力試験をはじめ、課外活動の実績・受賞歴・エッセイ・面接・個人のバックグラウンドと総合的な評価を行うことが大きな特徴です。日本の感覚では企業の採用選考に近い制度になっていると感じます。

李:確かにそうですよね。ただ、そのおかげで自分についてより深く知ったり、学ぶ目的を決めることができた留学生も多くいると思います。

田中:よくわかります。僕も受験を通じて自己分析ができて、そのおかげで入学後も目的意識を持てていると実感しています。

また、「Contextual Admissions(受験生の置かれている環境を考慮した評価)」を行っているという点も特徴です。例えば、高校によって取り組める課外活動や学校生活が大きく異なり、研究に没頭する機会が豊富な学校もあれば、そのような理解者が周囲におらず、やりたくてもできない学校もある。そのことを前提に各生徒が置かれている地域、学校、環境をいかに最大限に活かし、積極的に機会を掴んで取り組めているのかを評価します

 

Q. 海外大学受験で一番苦労したことは?

李:学費について調べた時は本当に途方にくれました。両親は安定的な収入を得ているものの、学部4年間3000万円以上もの負担は軽くなかった思います。米大学の一部は留学生向けの学費免除制度(世帯収入に応じ、学費減免する制度)があるものの、制度申請によって合格する確率が変わるという情報を聞き、夢を追うために親にここまでの負担をかけるほど海外進学に価値があるのか、長らく悩みました。

田中:アメリカの大学に進学する際、学費に関する悩みは、絶対に直面する壁だと思いますし、僕も非常に悩まされました。大学に合格したとしても、学費免除や奨学金を得ることができなかった場合、進学不可能でした。そのため、国内の大学の併願も考えていたものの、どうしてもアメリカの大学の出願準備だけが進み、国内の大学受験へのモチベーションを維持するのに苦心しました。周り国内の大学に向けて必死に勉強する中、この悩みを共有する相手がおらず、1人で両方をバランスよくこなすのは難しかったです。

 

Q. どうやってその困難を乗り越え、結果何が得られましたか?

李:一番の支えになったのは親からの信頼と応援、そして知見ある先輩方と知り合えたことだと思います。海外進学者向けの奨学金について全く知らない中、既に受給している先輩と長時間電話で相談たり、応募書類を添削してもらったりしたことが好結果に結びつきました

田中:僕も当時そんな先輩がほしかった! 頼る相手がいない中、試行錯誤することで、自分が必要なことを客観的に判断し、物事を効率よく進めていく力養えたと思います。ただ、余計な回り道をしたり、時間がかかったりと、できるようになるまで多くの苦労をしたため、誰かに教わり、アドバイスを積極的にもらいにいくべきだったと思います。

李:良き先輩との出会いは稀なものので、信頼して相談できる先輩がいないまま複雑な海外大進学を目指す高校生も多くいると思います。

そうした環境から生まれる孤独感や情報不足を解消するべく、昨年の春に田中くんと共にatelier basiという海外大進学支援団体を立ち上げました。現在、海外大学に在学するメンターが30名の高校生を指導しています。個人相談や情報共有のためのオンラインセッションに加えて、出願書類等の添削から面接の練習まで全て無償で行っています。

田中:atelier basiの設立は、自分達の受験当時に、欲しかったメンターやプログラム、コミュニティーを作り、自分達と同じような悩みを抱えている高校生の役に立てたら、との思いからでした。まだまだ理想型には至っておらず、もっともっと受講生のために役に立つプログラムを作り、より多くの優秀な高校生が世界各地の大学へと進学する後押しをしたいと考えています。

李:atelier basiのように、海外大学進学のためのリソースは徐々に増えています。ただ、海外大学受験において大事なことは、ウェブでの情報収集やイベントへの参加だけでなく、良い面も悪い面も含めた体験談を聞き、自分にとって適切なアドバイスを取捨選択することだと思います。海外大学を目指している方は、遠慮せずに多くの先輩に連絡することをお勧めします。本当に応援しています!

 


田中祐太朗
コロンビア大学(米国・ニューヨーク州)理工学部2年。私立・西大和学園高等学校の卒業生。主専攻で応用数学を、副専攻として哲学を学ぶ。医学とデータサイエンスを横断する研究を行うほか、幼稚園と小学校でボランティアにも従事する。同じコロンビア大生の李さんと日本の高校生の海外大学進学を支援する無償オンラインプログラム「atelier basi」を立ち上げ、運営している。



李卓衍
コロンビア大学理工学部2年。医療工学を専攻する予定で、副専攻には美術史を検討している。山口県にある中高一貫校在校時は、九州大学で材料工学に関する研究を行っていた。現在は合成生物学の研究室に所属するほか、大学のツアーガイドや大学内メディアの作成に関わる。

Category カテゴリ―