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2018.5.22

ICTによって浮かび上がる学校の本質
近畿大学附属高等学校(大阪府 共学校)

 

仕事や生活を一変させたICTは教育も変えることができるのだろうか。2013年に一人一台のiPad®を導入し、ICT活用による教育改革の先端にいる近畿大学附属高等学校。ICT教育推進室・室長の乾武司先生にお話をうかがった。

 

まずはこれを見てほしい。

 

入学したばかりの1年生が、最初に取り組んだ生物の課題レポートだ。高校1年生が授業で習うレベルをはるかに超えている。このレポートは、同校が取り入れた生徒一人一台のiPad®を活用した成果の一端だ。

「これは新入生にiPad®の使い方に慣れてもらうための課題です。以前は、細胞小器官について、私が板書して、生徒たちがノートに写して、『覚えておきなさい』と進めていました。それでは、せいぜい数行の知識しか伝えられません。しかし、今やネットには教師の板書をはるかに超える知識があります」

乾先生はそう話す。新入生は、生物の最初の授業で、6、7人ごとの班に分かれて、班の中でそれぞれ自分が調べる細胞小器官の担当になる。ミトコンドリア担当、核担当、リボソーム担当といった具合だ。そして、各班の同じ担当同士が集まりiPad®で調べ学習をする。それを班に持ち帰り、班の中で共有する。いわゆるジクソー法だ。ここまで2時間、教師は細胞小器官についてほとんど何も教えない。

生徒たちはその後、小器官同士のつながりをストーリーに仕立てて、2分間のムービーを制作し、提出する。iPad®をどんどん触って慣れると同時に、台本を書いて撮影した細胞小器官の知識は、板書の比にならないほど深く定着する。

「調べること、台本を書くこと、ムービーを撮影して編集すること、全てがiPad®で完結します。動画編集アプリの存在だけはアドバイスしますが、使い方などは授業で教えません。わざわざ教えなくても生徒の方が上手に使いこなすことも少なくない」

同校が一人一台のiPad®導入に踏み切ったのは2013年。大規模校としては全国初の試みだった。トップランナーとして導入当初に決めたポリシーは、自由度を狭めるような制限をかけないこと、知識のインプットは生徒主体で行うこと、紙以外でのアウトプットも正当に評価すること、などだ。

「生徒たちはタブレットやSNSが当たり前の時代を生きていきます。大人の常識で生徒の自由な発想をせき止めるようなことはしてはいけないと考えました。遊びにも使える道具だと受け入れたうえで導入するのでなければ、本当の意味でiPad®を使いこなせるようにはならないでしょう」

かつて、小説は「立派な人間の読むものではない」と言われ、教育現場にそぐわないものとされた。だが、今では国語で小説を扱わないことなど考えられないし、子供たちに小説を読むことを奨励すらしている。IT業界で活躍している人の多くは、子供のころにコンピュータで遊びながらプログラミングを学んだ。登場したばかりのツールは、古い世代から教育的でないものと見られる。そして、その古い常識はたいてい裏切られる。

「iPad®のようなICTツールの登場で、人類史上初めて、教師と生徒との知識差がなくなりました。本気で調べれば生徒の方が知識量で勝ることもあります。知識を小出しにすることで地位を保つような教師は今後不要になるでしょう。優等生像も変化します。以前は、お行儀よく静かに座って、あてられたときだけ発言する生徒が優等生でした。今後は、他の生徒と協調でき、活発にディスカッションし、失敗を恐れずにアウトプットする生徒が優等生となっていきます」

ICTは社会のあり方や仕事の進め方も大きく変えた。当然、学校のあり方も変わっていく。乾先生に今後の展望をたずねると

「iPad®導入時には学校のあり方まで変わるとは思っていませんでした。ですが、今は不合理なところや生徒主体でないところをどんどん変えていきたいと思うようになりました。まずは、生徒の評価を、これまでのペーパー一律から脱却して、iPad®に保存された成果物などをそのまま反映できるようにしていきたいです」

細胞小器官の2分間ムービーをいくつか見せてもらった。同じ知識、同じテーマなのに、班によって演出は全く異なる。ポップな雰囲気のもの、ドキュメンタリー風のもの、それぞれに生徒の個性が輝いていた。何よりも、みんな楽しそうだ。

2分間ムービー制作風景

 

学校は生徒主体のもの、学ぶことは本来楽しいこと —— 教員数や教材などの物理的な限界のため、かつてはこれら学校の本来の姿は忘れ去られがちだった。だが、そのハードルはICTによって極端に低くなっている。何でもできる便利なツールの登場によって、学校の本質が今まさに問い直されつつある。

 

近畿大学附属高等学校
www.jsh.kindai.ac.jp/hs/
大阪府東大阪市若江西新町5-3-1  TEL 06-6722-1261

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