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2021.12.29

地球の課題は身近なところから始まっている——SDGs教育
啓明学院中学校・高等学校(兵庫県 共学校)

 

生徒によるポスター作品

これからの社会の常識となりつつあるSDGs(持続可能な開発目標)。そのSDGsをテーマにして授業に取り組む時に難しいのは、どれだけ生徒が“自身の問題”として捉えることができるかという点。今回は、楽しみながらSDGsを学ぶ取り組みを進める啓明学院中学校・高等学校の事例を紹介する。企画広報部総合企画課長の佐藤知行先生、中学2年学年主任の小堀浩子先生にお話しいただいた。

 

グローバルリーダーの意味が変わった

 啓明学院は2015年度から2019年度までの5年間、文部科学省のSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)の指定を受けていた。採択テーマは「ソーシャル・アントレプレナーシップを備えたグローバル・リーダーの育成」。「アントレプレナーシップ(起業家精神)」はビジネス界でよく使われる言葉だが、それと「ソーシャル(社会)」がどう結びつくのか、採択当初はあまり理解してもらえなかったという。「起業」と「ソーシャル」は相反するものだと思われていたのだ。佐藤先生は当時を振り返り、次のように話す。

「SDGsが本学院の掲げるテーマへの追い風になりました。経済一辺倒ではやがて地球は行き詰まります。しかし、地球の抱える問題を政策や慈善事業だけで解決することは難しい。それらの課題に対する解決策を継続的なビジネスとして立ち上げる行動力・解決力のある人が必要だと意識されるようになったのです。」

 SDGsが周知される以前は「グローバルリーダー」といえば、世界を相手に自国や自社の利益を最大化できる人として語られることが多かった。しかし、SDGs以後、そのイメージは大きく転換した。私たちの社会を持続可能にするソーシャルな視点を持つことが、グローバルリーダーに求められるようになった。

「ようやく『ソーシャル・アントレプレナーシップ』の意義が社会で広く理解されるようになってきたと感じています。」

 

キリスト教の精神とSDGsの親和性

 MDGs(ミレニアム開発目標 2000年〜2015年)が開発途上国を対象として、開発の目標を先進諸国が決めるという一方的なものだったのに対して、SDGsは「誰ひとり取り残さない」を目標に、途上国のみならず世界中の全ての人が当事者であるという考え方に立つ。

「SDGsをどこか遠いところで決まったこと、政府や大企業だけが取り組むキャンペーンのように捉えては、学ぶ意味が半減します。生徒には、世界市民の一員として、共同体に参加するひとりとして、地球全体の問題を他人事と思わず、自分の問題として共感する感性を磨いてもらいたいと考えています。これは自己中心の考えから抜け出し、他者中心の生き方へと至るキリスト教の精神に通じるところがあります。SDGsを教育の柱の一つにしようと学校全体が踏み込むことができたのは、本学院の建学の精神とSDGsの理念との共通点が大きかったからです。」

 SDGsは雲の上にある理想を語っているものではない。もっと身近なものだ。日常の身の回りで知らないうちに加害者となることもある。

「たとえば、日本では回転寿司に行くと安くお寿司を食べることができます。あの値段を実現するためには、どこかに負荷がかかっているはずです。それは、海洋資源への負荷かもしれません。このようにSDGsの視点に立てば、海洋資源の問題と自分自身の消費とをつなげる想像力が得られます。」

 

年10回の授業で楽しみながらSDGsを理解する

 SDGsの学びをさらに充実させるために、土曜講座の必修講座として『知ろう!考えよう!SDGs』が開講された。中学2年生が1回45分の講座を10回受講する。最初はSDGsが採択された経緯から始まり、17のゴール、169のターゲットを学び、自分にできることを考えていく。小堀先生によると、講義形式の授業ではなく、グループワークを中心に、楽しみながらSDGsへの理解を深めていく授業がデザインされているという。

「SDGsを題材にしたボードゲームやカードゲームで遊びながら知識を深めたり、グループで話し合ったり、調べたことを発表し合ったりする講座にしています。SDGsは自分の事として捉え、行動することが大切なので、一方的にさせられる授業にならないように、私たちも一緒に楽しむことを心がけました。講座の最後には『ひとこと多い張り紙』の作成に全員で取り組みます。SDGsを理解するための教材で、自分だけでもできる、身の回りでできるSDGsの取り組みを標語にして、ポスターを作るというものです。」

ゲームを使ってSDGsの知識を深める

自分にできるSDGsへの取り組みを発表

 

 SDGsの経緯やゴールを知り、企業や政府が行っている取り組みについて調べ、自分たちの目標を作り発表する。この一連の学びを10回かけて丁寧に進めていく。生徒たちは普段の授業よりも積極的に、集中して取り組んでいるという。先生も「楽しかったですよ」と顔をほころばせる。

※ひとこと多い張り紙
https://www.janic.org/world/sdgstool/

 

中高で蒔いたタネが将来花開く

 高校3年で取り組む卒業研究では、それぞれの生徒が自分の興味のある研究テーマを設定し、1万2千字の論文を作成する。テーマ選びの際にはSDGsに拘らず自由に選ぶのだが、研究が軌道に乗ってきたところで「SDGsの17のゴールのどれと関わりそう?」と生徒に問いかける。日々の授業でSDGsを学んできた生徒たちは、自分の興味とSDGsのゴールとを自然に結びつけ、卒業研究をさらに一歩も二歩も考え進めたものに深める。佐藤先生が学びを終えた卒業生の将来の姿を次のように話してくれた。

「日々の授業などを通じて蒔いた思考のタネは、普段の生活や世の中にあるビジネスモデルがどうなっているのか、気にかけて見ることで育てられます。大学に進んで以降は、どんな世の中にしたいのか、そのためにどんな専門性を身につければ良いのか、自分の進むべき道へとつながります。良い大学、良い就職はあくまでも手段に過ぎません。生徒たちには、それぞれに与えられた賜物を磨いて社会を支え、より良い社会を作ることができる人になってもらいたいと考えています。」

 

進学館

 

啓明学院中学校・高等学校
https://www.keimei.ed.jp/
神戸市須磨区横尾9-5-1  TEL 078-741-1501

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