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2022.3.25

私たちが海外進学をすすめる理由
第5回 世界トップクラスの大学で学ぶとはどういうことか

 

近年、進学校でも進路として関心が高まっている海外大学。ただ、まだまだハードルが高いと考えている家庭が多いのではないでしょうか? 本連載では、日本の高校から米国・ニューヨーク州の名門コロンビア大学に進学し、高校生の海外進学を支援する活動に取り組む田中祐太朗さん、李卓衍さんに海外進学の実際をお聞きします。

 

Q.日々の授業について

李:私は基本的に1学期につき6授業を受講しており、単位数より換算すると少なくとも週18時間は授業の予習や復習に使うことになっています。実際は宿題や実験レポート、プロジェクト、試験準備などを合わせると大体1日8~10時間は勉強していると思います。課題がとにかく多く、理系科目は授業内容から大幅に発展させたものが課されるので、スケジュール管理が鍵になます。締め切りを過ぎると評価が下がるので、一度始めた課題はできるだけ3日以内に終わらせることを心がけています。周囲を見てもオフィスアワーを積極的に使って分からないことはすぐに解決したり、遅くまで図書館で集中して取り組む学生が多い印象です。コロンビア大学はニューヨークにあるので、街に出かけてあまり勉学に力を入れていないと思われるかもしれませんが、切り替えが上手な学生が多く、深夜に遊びからキャンパスに戻りそのまま図書館に行く人もいるほどです。

田中:私も同じく1学期につき6授業履修しており、課題や授業の量は同程度となっています。学期の半ばになると、図書館も深夜まで満席となり、多くの学生が日付が変わるまで勉強しています。ただ、アメリカの大学生は総じて学習意欲が高いものの、就職や大学院への進学などにおいて成績が非常に重視されるため、学習内容の習得以上に点数や成績を気にしながら勉強している学生が多いように思います。

 

Q.インターンシップやボランティア活動、社会貢献などについて

田中:日本の大学と同様に、アメリカの大学でもかなりインターンシップやボランティアを通じた実践的教育を推奨していることを感じます。また、場合によっては単位として認定されたり、大学からの補助金(活動費等)も交付されたりと、かなり手厚く機会や支援の提供を行っていることが多いと思います。私も学期中に研究開発のインターンをベンチャー企業で行ったり、地域の小学校や幼稚園で音楽や教室の手伝いを行うボランティアをしたり、できる限り座学のみならず、様々な経験をできるように意識しています。

李:ボランティア活動や社会貢献に関しては、全員ではないものの、多くの学生がなんらかの形で関わっていると思います。例えば、校内でのリサイクル品や家電回収を行い年始めにフリーマーケットを開催するクラブ活動や、研修を受けた後に救急医療隊員として校内を巡回するボランティア活動もあります。社交を目的としたサークルのようなクラブは少なく、部員が多くの時間を注ぎ、明確な社会的インパクトを生み出すことを重視していると思います。ただ、各メンバーの目的はさまざまで、中にはメディカルスクールやロースクールへの出願を意識して参加している学生もいるのが実状ですね。

 

Q.世界トップレベルの大学生は「noblesse oblige」についてどう考えているのか

李:私自身も親や奨学金団体を始めとした理解者のおかげで今の学習環境があり、「恩送り」のためにatelier basiという海外大学進学支援を行う非営利団体を設立しました。一方で、世界的にも有名な教育機関に身を置くと、周囲に期待され、行動の一つ一つを厳しく評価されてしまう現状もあります。恵まれない家庭環境や経済状況に直面していたり、人種や性的マイノリティ学生も多くいることが十分に表面化されておらず、「世界トップレベルの学力」という目立つラベル付けによって、批判が生まれやすいのではないかと思います。社会問題に関する意識は必要だと思いますが、むやみに学生が大企業に就職することを責めたり、ボランティアや啓蒙活動に時間を注ぐよう圧力をかけることはむしろ逆効果だと感じます。事情は人それぞれで、必ずしも全員が社会責務を果たす自由や余裕を持っているとは限らないということは伝えたいです。

田中:ニューヨークの年々格差が広がる有様の真っ只中で生活し学ぶ中で、自分達が持っている特権や社会格差が話題に上がらない日がない程、学生全員が格差や社会における自身の権利、そして責務を考えており、直面している課題の一つだと感じています。

私も、李さんと同様の動機からatelier basiを設立、運営しています。また、周囲と話す中で、多くの学生は「高貴たる故の義務」があると同時に、「自己実現の権利」を持っていると考える風潮があると感じており、これらの間迷ったり、苦しんでいることも多いように感じます。大学内では高い給料の職に就くことが憚られる風潮もありながらも、蓋を開けると多くの学生が高い年収を得られる職に就く矛盾もこれから生じているのでないか、と考えています。ただ、「恩送り」の文化は日本以上に活発であり、卒業生が毎年大学に対し寄付を行い、在学生のための奨学金を設立したり、新たな設備のための資金を贈ったりと、経済的に余裕を持つようになった際に、自分が頂いた恩を次の世代に贈る風潮はあると感じます。これが一種のノブレスオブリージュの果たし方になっているのかな、と思います。

 

Q.それらを通して世界の見え方が変わりましたか?

李:私は入学まで地方の高校にいたこともあり、周りに自分と似たような活動に興味を持つ同年齢の人があまりいなかったため、どうしても自分を過大評価しやすい傾向にありました。一方で、大学に進学してからは常に一番でいられないからこそ、自分なりに貢献できることを探したり、弱みをどう周囲の学生や大学のリソースで補うか考えるようになりました。また、できるだけ多くの文化資本を仕入れ、ニュースや倫理的なテーマについて自分なりの意見を持つことで、いつでも会話に貢献できる状態を整える大切さを感じました。

日本から離れて、自分の価値観について振り返ったこともたくさんありました。例えば、ある友人と将来の夢について話していたとき、「どうしても親の期待を裏切りたくないと感じてしまう」という思いを共有したところ、友人には「これまで20年も親を喜ばせてきたのだから、親離れしたこれからはむしろ自分の夢を追うメリットの方が大きい」と指摘され、家族関係を大事にするアジア的価値観に支配されていた自分に気づかされました。

田中:私が最も印象的なのは、いかに自分が恵まれ、視野が狭かったことかを痛感させられたことでした。大学に進学することで、学問の視野が広がり、知識も増えましたが、これまで自分が目を向けられていなかった社会課題に直面し、それらの解決、解消にどのように自身が貢献できるかについて時間をかけて考える機会となりました。

また、自身の変化として、他者と比較せず自分が好きなこと、したいことにより没頭できるようになったと感じています。大学進学前まではどうしても同級生や他人と自分を比較してしまい、点数や成果を競うことで成長しているように感じていましたが、純粋理学や文学など、私が触れたことのないような、全く想像できないような世界において学部生ながら専門家として第一線で探求している学生と交流することで、競わずに自分も好きな方面で没頭したいと思うようになりました。大学入学後一年程はあまりに凄すぎる同級生の中で「インポスター症候群」(自分の能力、成果を肯定できず、自分が詐欺師のように感じる状態)に苛まれましたが、少しずつ自分の中で変化を感じられるようになったことは凄く嬉しいです。

 


田中祐太朗
コロンビア大学(米国・ニューヨーク州)理工学部3年。私立・西大和学園高等学校の卒業生。主専攻で応用数学を、副専攻として哲学・医療工学を学ぶ。医学とデータサイエンスを横断する研究を行うほか、幼稚園と小学校でボランティアにも従事する。同じコロンビア大生の李さんと日本の高校生の海外大学進学を支援する無償オンラインプログラム「atelier basi」を立ち上げ、運営している。



李卓衍
コロンビア大学理工学部3年。専攻は医療工学。副専攻で美術史を学ぶ。山口県にある中高一貫校在校時は、九州大学で材料工学に関する研究を行っていた。合成生物学の研究室に所属するほか、大学のツアーガイドや大学内メディアの作成にも関わる。

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