近年、進学校でも進路として関心が高まっている海外大学。日本の高校から米国・ニューヨーク州の名門コロンビア大学に進学した田中祐太朗さん、李卓衍さんは、高校生の海外進学を支援する無償オンラインプログラム「atelier basi」を運営しています。お二人に、その活動経験から、日本の海外大学受験生がぶつかる壁やよくある困りごと、実際にやってみないとわからないことなどを教えていただきます。
最初の壁は受験スケジュール
まず、日本から海外の大学を受験する際に多くの受験生がぶつかる壁として、受験スケジュールが挙げられます。海外の大学は9月入学の場合がほとんどであり、それに伴い志望大学へ出願する時期が日本の高校の標準的なスケジュールとずれてしまうことが多く、また進学先の国や大学によって時期が少しずつ異なることで複雑さが増します。
実際、私たちが運営するatelier basiの過去の受講生も、出願時期や受験に必要となるSAT(全米共通の標準テスト)の試験日程が高校の行事や試験期間と重なってしまい、スケジュール管理に苦労する受験生も多く見られます。そこで、特に海外の大学を受験する生徒が少ない高校からの受験生は、可能な限り受験する年の夏休み前までに自身の受験スケジュールを先生方や学校側と共有しながら、理解してもらえることが非常に重要です。
スケジュールの把握は自分のためだけではありません。慣れない英文の推薦状や学校に準備してもらう資料を余裕を持って依頼するためにも、先生にお願いする時期やタイミングを自分・学校側が把握することも同様に大切です。
直前の変更にも余裕を持って対応できるように
atelier basiのプログラムでは、受講生が今後、短期的(1ヶ月以内)・長期的(数ヶ月先)の予定を自分で把握し、計画できているかを定期的に確認しています。
さらに、出願時に必要となるエッセイや出願ポータルの記入などについては段階的に締め切りを設け、メンターに目を通してもらうことで、できるだけ出願間際の混乱を避けるようにしています。
海外の大学を受験する受験生のみならず、日本の大学を複数校・方式で受験したり、海外と日本の大学を両方受験したりする高校生など、多くのやらなければいけないことが重なる時期がどこかしらに現れると思います。その状況の中で、出願先の変更や追加など、直前の予定変更に余裕を持って対応できるように、自分がどんなタイミングにおいても予定を把握し、忙しい時も目の前のことのみに忙殺されないように意識することが大切だと思います。
受験サービスが提供する「模範回答」に流されず
正しいスケジュール管理を行うにあたり、大学や試験開催者等が発する一次情報の収集や理解は不可欠なのはもちろん、二次情報を重視しすぎないよう用心することはそれ以上に大切です。
私自身も海外大学受験を意識し始めた頃から、上京する機会を作っては無料セミナーや相談会に参加していました。ただ、振り返ってみると、どんなに経験を持ったプロフェッショナルが唱える方法論でも、基本的にはその個人もしくは団体が提供するサービスをより魅力的に見せるためのものでした。
特に海外大学という選択肢が広まるにつれ、マーケティング戦略の一環として提供されたアドバイスを情報収集に必死な受験生は鵜呑みし、合格するための「模範回答」があると思い込まされ、サービスを消費するための型にはめようとする傾向が以前より強まっていると感じています。
例えば米国のアイビーリーグと呼ばれる8大学※には日本から毎年各校5名前後の合格者しかいない中、自分の意志抜きで作り上げられた「完璧」なプロフィールと、自らの選択の結果得られた能力・個性・経験の総括のどちらで自己アピールをしたいか、早い段階で一度受験生本人に考えてもらうと良いと思います。
私も受験生の時はよく周りの動向に目を向けていましたが、外ばかり見ているとその分、自分自身を振り返る時間が減り、情報を大量に集めたその先で自分がどうしたいか、どんな人になりたいか見失いやすいと感じます。例えそのような経緯で合格しても、明白な道標がない大学生活の中で再び周りに流されてしまうかもしれません。
海外大学受験という二度とない経験が、勉強漬けとは異なった、自分の頭で考えるとはどういうことかを学ぶ機会になってほしい、という思いを込めてatelier basiを運営しています。
※ アイビーリーグ:米国北東部にある伝統ある名門私立大学、ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学。