2020年以降の大学入試改革や新指導要領で日本の教育は大きな節目を迎える。その一つが従来型の知識を覚えるだけの学習からの脱却だ。しかし、肝心の入学試験が知識だけを問うタイプのままでは、子どもたちの学び方を根本的に変える力が弱い。今回紹介するのは、智辯学園奈良カレッジの思考力や表現力を問う入試方式だ。渉外部部長の角幸範先生にお話しいただいた。

これからの時代の学校として

　智辯学園奈良カレッジは2019年度入試から従来型の一般入試に加えて、受験生の思考力や表現力を問う入試を実施している。多少の変更を経て、現在は「思考力型算数入試」「表現力入試」「特色入試」の3つの方式がある。

「本校は2024年に創立20周年を迎えます。この20周年から逆算して、これからの時代に子どもたちにどのような力が必要なのかを考え、そのための教育を実践する学校となるべく改革に取り組んでいます。新しい入試方式もその一環です。」

　角先生が新入試導入の経緯をそう説明する。「思考力型算数入試」は算数1科目型。「表現力入試」は「人文社会科学」と「自然科学」の2科目受験だが、いずれも全ての学力の基礎となる読解力・思考力・表現力が問われるような出題となっている。「特色入試」はテーマに沿って自分の考えを書く課題作文形式で、こちらは事前のエントリーでこれまでの活動実績や基礎学力が審査される。

国語力が問われる算数

　これは、2022年度の「思考力型算数入試」の問題文の一部だ。全12ページの問題用紙中、基礎的な計算問題や図形問題も3ページほどあるものの、残りは上図のように問題用紙が文章で埋め尽くされている。

「4年前と5年前に行われた大学入学共通テストの試行調査を分析して、その方向性を小学6年生向けにアレンジしました。日常の事柄に絡めた問題を、長めの問題文をきちんと読み取って、色々な条件の下で知識を活用して解く出題傾向になっています。」

　2022年度、高校で新課程が始まった。新課程で学んだ生徒が受験する2025年度の共通テストは、さらにこの出題傾向が強まるだろう。5年前から予告はされていたものの「本当にこんな問題を出すのか？」と疑問視する学校も少なくない中で、これからの子どもたちに求められる学力として中学入試に取り入れたのは、先見の明と言える。

「算数ですが『読む力』と『文章で説明する力』が重要になってきます。そのため、国語の成績の良い受験生は、思考力型算数入試でも良い結果を残す場合が多いようです。算数1教科型ながら、同時に国語力も測ることができています。」

　「表現力入試」でも同様のことが実現している。「人文社会科学」と「自然科学」は言い換えれば「社会」と「理科」だが、長文の読み取り、グラフの読み取り、データを基にして計算する力などが必要で、国語力や算数の力も問われている。

多様な価値観の尊重

　新入試の入学者は現在高1となっているが、20周年に向けた学校を挙げての取り組みで、生徒の学び方にも変化が現れている。

「希望する進路が多様化してきました。以前は、京都大学・大阪大学など大学名がまず挙がっていましたが、近年は学部名・学科名が最初に出てきます。将来どんな分野で社会の役に立ちたいのか、何をしたいのかを早い段階から考える生徒が増えました。生徒を対象とした大学・企業等のプログラムやボランティア活動などへの参加も活発になり、以前より多様な価値観を認め合い、お互いを尊重し合うようになっています。創立以来力を入れてきた、感謝の気持ちを持ち、一人ひとりを大事にして、人のため社会のために学ぶ、という本校の教育目標が実現されていると感じます。」

普段の学習から意識を持って

　最後に、この入試方式に挑戦する受験生はどのような勉強をすれば良いのか、アドバイスをもらった。

「基本的な学力はもちろん、グラフ・表や文章を読み取り、それをどう使えば良いのか、調べたり発表したりする場合にどんな資料が必要なのか、普段の学習から意識して取り組んでください。具体的には、アクティブラーニングにきちんと取り組むことや、与えられた問題を解くだけではなく、なぜその計算で解くのか、なぜこの資料が使われているのか、といった”なぜ”の習慣を持って勉強することです。」

　2023年度入試では、一般入試Aが3日目（1月16日）午前に変わり、人気校の多い奈良県での受験スケジュールが組みやすくなった。20周年に向けて新しい学びに対応した図書館新設など、教育内容が充実する智辯学園奈良カレッジに注目したい。

23年度末に完成予定の新図書館は新しい学びに対応