2021年に3つの新コースを開設した滝川第二中学校。それぞれのコースに特色があるが、今回は「プログレッシブ数理探究コース」の特徴ある行事サイエンスツアーにスポットライトを当てたい。プログレ探究担当の西島健先生にお話を聞いた。
細胞分裂と生命誕生の違い
みなさんは命が誕生することと卵細胞が分裂して増えることとの間に、どのような違いがあるのか考えたことがあるだろうか? 受精卵が生き物の姿になる過程では、単に分裂して増える以上のことが起きている。滝川第二の「サイエンスツアー」では中2生が実際にウニが発生する様子を目で見て、この問いを納得するまで考える。西島先生がその様子を説明してくれた。
「中2のサイエンスツアーは、瀬戸内海にある家島諸島・西島での宿泊行事です。生徒たちは自らの手でウニを採集するところから始めます。精子と卵を取り出し、受精させて海水に戻して、時間を置いて発生段階が進む様子を顕微鏡で観察します。最終的にプリズム幼生になるまで観察した後、目の前で何が起きているのかを生徒たちは考えます。」
中2で生物を学び始めたばかりの生徒たちは、最初は「細胞の数が増えた」ぐらいの認識しかない。しかし、それで終わりにせず、観察結果を見ながら徹底的に考え続けると、少しずつ生徒の間から鋭い指摘が出てくる。
「細胞分裂が進んでくると、細胞の大きさや数に偏りが出てきます。ある部分は脳に、別の部分は消化器官になるといったことがわかってきます。そういった点に着目すると、単純に細胞の数が増えているのではないことに気がつきます。」
もちろん、教科書を読めばその知識は書いてある。だが、その知識は初めから教科書に載っていたわけではない。発生の仕組みを探究した先人がいたから私たちはその知識を本から得ることができる。先人の発見を追体験するのも大切な探究学習なのだ。
「サイエンスツアーから帰ってきた生徒たちは、科学的な思考力や顕微鏡観察のテクニックも上達していますが、何より重要なのは、不思議に思うことや好奇心を抱くことをためらわなくなることです。普段からも生徒から鋭い質問や優れた考察が出てきた時は、どんどん褒めて奨励しています。『わからない』のは恥ずかしいことではなく『わからない』ことを認めて、質問することは格好いいのだと思える雰囲気が生徒の間にできています。」
自由参加ながらほぼ全員が参加
手付かずの自然に囲まれた離島での宿泊行事は、学習である以前に生徒にとって未知の楽しいイベントでもある。
「生徒はとても元気です。スマホを使えない環境の中で、ワイルドな生活を友だちと楽しんでいます。本校としても、どんな環境でもタフに生き抜くことは現代の子どもたちに足りない力だと考えて、この行事に取り組んでいます。自由参加にもかかわらず、参加率はほぼ100%です。」
参加した生徒の感想の一例を挙げると「きつかった、暑かった、けれども楽しかった」とシンプルに宿泊行事を楽しんだ生徒から「自分はまだまだ受け身であるのが分かった」と学ぶ姿勢を見直す生徒、「生き物について考えたけれども、不思議だった」と探究の本質であるセンスオブワンダーを感じた生徒までいた。
「この行事は、本校が数多く取り組む探究学習の一つです。3年間、色々なテーマについて探究的に学ぶことで、将来自分が探究するテーマを見つけることに繋がります。中学段階はそのための準備と考えています。」
科学はカッコいい
西島先生は、サイエンスツアーや探究授業で生徒が集めた観察データをすべて保管しているという。今、中3生の「プログレッシブ数理探究コース」の一期生が高校に進学し、サイエンスツアーで得た観察データをもとに、さらに探究を発展させる姿を楽しみにしているそうだ。
「プロアスリートやYouTuberだけが格好いい生き方ではありません。科学や数学的な思考力で、自然のことや世界のことに疑問を抱き、それを解明していく。そんな姿も格好いいという価値観を、生徒たちに持ってほしいと思っています。」