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2024.2.23

質・量ともに充実のサイエンス教育で「研究マインド」が育つ
高槻中学校・高槻高等学校(大阪府・共学校)

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 AIの進歩にともなって「どれだけ覚えているか」「与えられた問題をいかに正確に解けるか」といった能力は教育の目標ではなくなってきた。代わって重要視されるのは「どのようなものに興味を持つか」「調べたり考えたりしたことをどのように表現するか」になっていく。今回は、高いレベルのサイエンス教育で探究中心の学びを推進する高槻中学校・高槻高等学校の取り組みについて、SSH推進部の大木徹先生、神田宮壱先生に伺った。

 

名実ともに必然だったSSH指定校

「本校はもともと理系志望者の多い男子校でした。その当時から大学の研究者を招いて、生徒の知的好奇心を刺激するような講演を行なっていました。以前は、進路指導部が主体でしたが、SSHの指定をきっかけに、全校の取り組みとして、探究を学校の中心に置いています。」

 同校がサイエンス教育に力を入れるようになった経緯をこのように説明してくれた。大阪府では、公立高校のトップ校は軒並みSSHの指定を受けている。隣の京都府に目を移しても、洛北や堀川といった難関公立高校はSSH校だ。その間に挟まれ、理系に強い高槻がSSHの指定を目指さない訳がない。同校は大阪府内の私立で初めてのSSH指定校となった。

「本校の母体である大阪医科薬科大学との連携の講座では、希望者が増えて、大学の講堂に入りきれなくなったため、講師に本校まで来ていただくようになりました。全国一の医大との高大連携だと自負しています。」

 探究学習、SSH指定、高大連携などにより、同校のサイエンス教育はとてもボリュームの大きいものになっている。まず、授業の一環として行う「課題研究」。そして、放課後に希望者が受講する「基礎医学講座」(高1・2)、「基礎薬学講座」(中2~高2)などの各講座、各界の専門家から深く学べる「SSセミナー」(全学年)、冬休みには「冬期医学部実習」(高1)、夏休みには「サマーサイエンスプログラム」(高1)、「高大接続課題実習」(高1・2)などの講義・実習が、医学・薬学から生物学、化学、工学、SDGs、医系女子の座談会まで幅広くある。とてもこの誌面だけでは紹介しきれない。

課題研究の発表

課題研究の発表

 

先輩を見て「自分たちも」の好循環

「私たちから生徒に『こういう講座を開きます』と提供はしますが、どれを選ぶかは生徒一人ひとりの判断です。参加する生徒はとても積極的で、海外も含め校外で成果を発表する機会があると、その枠をめぐって競争になるほどです。近年は、さまざまな学会が高校生部門を設けているので、そこで発表をして受賞する生徒もいます。」

 とはいえ、取り組みを始めた初年度から、すべての生徒が積極的だったわけではない。SSH一期生が海外で受賞したり、科学の甲子園で優勝する生徒が出てきたりしたことで、そういう先輩に憧れを抱いた後輩たちが「自分もそうなりたい」と高い意欲を持つようになったという。探究学習にしっかりと取り組んだ生徒は、大学入試の学校推薦型選抜や総合型選抜(旧AO入試)に強く、受験に有利という認識も定着しつつある。

 

与えられる課題を待たない

 サイエンス教育の拡充で、生徒の様子がどう変わったのかを聞くと、次のような答えが返ってきた。

「10年前は、進路について『理学部にしようか、工学部にしようか』と学部で迷う生徒が多くいました。今はそんな生徒はほとんどいません。大学の研究に直に触れると、研究内容は学部よりも研究室ごとの違いの方が大きいとわかるからです。その結果、どの研究室に行きたいかで、大学・学部を志望するようになりました。」

 他にも「与えられる課題」を待つ生徒が少なくなった。文化祭でもオープンキャンパスでも、自分たちからしたいことを学校側に提案する。課題研究では、教師に言われなくても、自分で考えた研究テーマに放課後遅くまで残って取り組んでいる。中には土日に登校してくる生徒もいる。

「大阪医科薬科大学の研究者から『高槻の生徒と共同研究がしたい』とオファーをいただくケースも出てきました。また、講師の先生に『こんなにしっかり講義を聞いてくれるとは』と驚かれることもあります。一連の取り組みを通して、研究マインドが身についているのだと感じています。」

 「探究を学校の中心に」の方針は今後も拡大していく。現状は理系のメニューが多いが、文理問わず、新たな取り組みを増やしていくとのこと。2024年度に加わる講座の一つが「科学倫理」。科学技術の急激な発展が従来の常識と摩擦を起こすこれからの時代に、必ず重要になるテーマだ。探究を中心にした同校のこれからの展開に大いに期待したい。

 

高槻中学校・高槻高等学校
https://www.takatsuki.ed.jp/
高槻市沢良木町2-5 TEL 072-671-0001

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