2021年度に中学校で、2022年度に高校でスタートした新学習指導要領では、思考力や判断力が重要とされ、教科横断的な学びも推奨されている。三田学園では、S(Science)、T(Technology)、E(Engineering)、A(Art)、M(Math)を横断しながら探究的に学ぶ「STEAM教育」の中心にR(Robotics:ロボット工学=ものづくり)を置いた「STREAM教育」に取り組んでいる。同校の取り組みについて、STREAM教育を担当する増田詩人先生、「Action Plan 2030」主幹の鈴木応男先生にお話を伺った。
教科横断的に思考する本来の学び
三田学園では、2022年度より「STREAM教育」という独自の教育プログラムに取り組んでいる。中1・2の2年間、ものづくりを通して、教科の知識はもちろん、思考力や判断力といった、新学習指導要領で重視されている力を伸ばしている。STREAMという言葉は、STEAM教育の中軸に「R(Robotics:ロボット工学=ものづくり)」を据える、同校の考え方を表している。
「今、しきりに『AIが発展することで、人間は思考力・判断力が必要になる』と言われていますが、私はこの考え方に違和感があります。当然のことながら、コンピューターがなかった時代にも思考力・判断力は必要でした。ただ、かつては遊びの中で試行錯誤しながら身につけることができていました。」
STREAM教育を担当する増田先生は、このように現代の状況をとらえている。思考力・判断力を個人で身につける機会が減ってしまったため、学校で取り組む必要が出てきたのだ。確かに、ひと昔前は、玩具もゲームも種類が少なく、子どもが自分たちで遊び方を考えたり、機械を分解して遊んだりしたものだった。現在では、多種多様な遊び道具が完成された形で手渡され、子どもの考える余地は少なくなっている。
「試行錯誤して、ものづくりに取り組むことで、思考力を培うような授業がしたいとずっと思っていました。現実世界で実際に動くロボットを組み立てると、考えて修正することが必ず必要になります。その過程で必然的にSTEAMの各教科が連携する、学びの王道です。」
増田先生のこの思いは、以前から顧問を務める物理部の活動として実践されていた。同部はロボカップジュニアWorldリーグでの優勝経験もある強豪。そこでの活動が、同校の新しい時代に向けた改革「Action Plan 2030」と結びつき、学年全体に広げられた。「流行りのSTEAM教育」をしようとしたのではなく、以前からやりたかった教育を周囲が「STEAM」と呼ぶようになった。
不器用な人はいない
「何でもこなせる”器用な人”はいます。しかし、ずっとできないままの”不器用な人”はいないと考えています。できないのは、単に経験がないだけのことです。」
STREAMの授業でつくるのは、はばたき飛行機(中1前半)とライントレースロボット(中1後半~中2)。いずれも部品を含め、できるだけゼロから自分たちで作る。ライントレースロボットでは、CAD(Computer Aided Design)ソフトで車輪をモデリング、3Dプリンターで出力する。中学生には難しい作業ではないかと、増田先生にたずねたところ、上記のような答えが返ってきた。授業の最後まで、ずっと不器用なままの生徒はいないという意味だ。
「私たちも最初、中学生に3D CADは難し過ぎるかもしれないと心配していましたが、始めてみると、生徒は使いこなせるようになっていきます。正直、生徒たちの成長はすごいと感じています。」
また、思考力を伸ばすために徹底していることがある。それは「教えてもらう」のではなく、「見て、真似て、自分で考えて作る」こと。
「物理部での活動当初は、手間取る生徒に答えを教えてしまうこともありました。しかし、それでは自主性が育たないと感じ、極力教えないようにしました。そのため、授業は、取り組みやすい『はばたき飛行機』から始めて、自分の力で段階的に難易度を上げていくカリキュラムとなっています。」
生徒は参考動画をじっくりと観察し、どうすればいいのかを思考する。「観察力」も現代の子どもたちが十分に育てられていない力だと増田先生は話す。
興味を持って乗り越えて身につくもの
「STREAM教育を始めた時、新入生は楽しい授業を期待していなかったようでした。それが、はばたき飛行機を飛ばした瞬間に、表情が一変します。改良すべき点に気がついて、よく飛ぶ飛行機を作る生徒が出てくると、他の生徒も興味を持って、熱心に改造しはじめるのです。」
3D CADという難関を乗り越えてつくるライントレースロボットでは、その喜びも一層強い。
「自分の力で完成させて動かした時、生徒はとてもいい顔をします。完成させるのは決して楽ではなかったはずですが、生徒たちは最後までがんばってついてきてくれました。自分で見て学ぶ力が高まり、今後も自分の力で乗り越える自信になったと思います。」
生徒たちは、以前に比べて「やらされる」のではなく「やってみよう」という雰囲気が強くなった。授業時間が終わっても止めずに作り続ける生徒もいるという。ゴールに向かって一生懸命取り組んだことからくる自信、難しくても挑戦してみたら楽しかったという経験、それらが学校全体の改革とも相まって、高められている。三田市の「こうみん未来塾」で、同校の生徒が小学生にものづくりを教える講座は好評で、市の担当者はアンケートのあまりの高評価に驚いたそうだ。自主性をもって取り組んだことで、他者を楽しませるほどの高いレベルに到達する。まさに学びの王道ではないだろうか。