文部科学省の「GIGAスクール構想」によって、学校での一人一台環境は当たり前のものとなった。現在、端末の更新を機にした「NEXT GIGA」でのさらなる発展が模索されている。ハードウェアの環境は整ったが、大切なのはどのように活用するかだ。梅花中学校・高等学校にはSilicon Valley Lab.という生徒が自由に使える独自の施設がある。どのように活用されているのかについて、入試広報部長の大石一星先生、ICT教育ご担当の清水政宏先生にお話しいただいた。
教室のカテゴリーを超えた自由な学びの場
まずはトップ画像をご覧いただきたい。ダクトレールに取り付けられたスポットライトや木目の壁、机——お洒落なカフェや新しい働き方で利用者が増えるコワーキングスペースのように見える。この独特な雰囲気を持つ教室は、梅花中学校・高等学校のプログラミング専用教室「Silicon Valley Lab.(以下SVL)」だ。
「GIGAスクール構想が打ち出された頃、本校でも、これからの生徒にとってプログラミング的思考が重要であると学内の方向性が一致していました。そのための拠点として、デジタルなプログラミングと、リアルなロボットの組み立て作業に集中できるスペースを設けました。」
大石先生がSVLを設置した経緯を説明してくれた。以前より同校にはコンピュータがずらりと並ぶ従来型のICT教室もある。だが、SVLはその雰囲気にも表されているように、従来の「教室」のカテゴリーを超えた、自由な学びの場としてデザインされている。
「授業としては、中学校の総合の時間や各教科で必要に応じて使うことができます。また、新聞部の活動場所でもあり、昼休みや放課後に生徒が自由に訪れる共有スペースでもあります。ふらっとやって来た生徒がプログラミングやロボットで遊んでいる間に興味を深めて、常連となって作品の制作に取り組む生徒も出てきます。」
同校の新聞部は名称こそ「新聞部」だが、実際にはロボット・プログラミングにも取り組む。主な活動は、学外のコンテストへの参加や文化祭への作品出展だ。昨年は、中学2年生のチームがRoboRAVE 大阪大会2023に出場。「a-MAZE-ing Challnege」という競技で見事に中学生部門で優勝した。
LINEスタンプにも動画にも広がる活躍の幅
「生徒の中には、運動にアクティブな生徒もいれば、インドア派の生徒もいます。これまでインドアでの活動といえば、美術、文芸、手芸などが中心でした。そこにロボット・プログラミングが加わり、インドアでの活躍の幅が大きく広がったと感じています。」
自由な学びの場であるSVLでの活動は、プログラミングだけに限定されない。LINEのスタンプを制作する生徒や動画を編集する生徒もいるという。以前、ウクライナからの留学生が講演した時に、返礼として、生徒たちが思い思いに、平和を願い、支援の気持ちを込めた動画を制作した。そのような活動でもSVLは便利な拠点となる。
「最近の生徒たちは、特別な技術や設備がなくとも、見事なデジタル作品を作り上げます。デジタルツールを使った表現力が非常に高いと感じています。その表現力を単発で終わらせることなく、体系的な技能として後々にも応用できるように高めるのがSVLの役割だと考えています。」
「情報の梅花」へ
SVLを使うことで、生徒の様子にどのような変化が見られたのかをたずねると、清水先生は次のような点を挙げてくれた。
「SVLではチームで作業することが多いので、仲間との協力を学ぶ場になっています。そこから、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力が自然と伸びていると感じています。プログラミングは正解が一つではありません。正解に辿り着くまでのプロセスに面白さを見出すことも変化の一つだと見ています。」
大学入学共通テストでは、来年度から「情報Ⅰ」が一つの科目となる。同校でもそのことは当然意識していて、夏休みには、共通テスト「情報Ⅰ」対策を実施するとのこと。特進コースの生徒は、さらに高度な技術として、Pythonなど本格的なプログラミング言語に挑戦する。生徒の希望進路としても情報系は増えていて、梅花女子大学・情報メディア学科の人気も上昇中だ。「英語の梅花」「チアリーディングの梅花」など色々な分野で名を馳せる同校だが、そこに新たな分野として「情報」が加わるかもしれない。