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2025.3.21

興味を持つ 研究活動を体験する そして生きる道を見つける——Future Innovator Training
神戸大学附属中等教育学校(兵庫県 国立)

神戸大学附属中等教育学校では、同校の掲げる教育目標である5つの力(「見つける力」「調べる力」「まとめる力」「発表する力」とそれらを総合する「考える力」)を育てる取り組みを「Future Innovator Training(以下、FIT)」と呼んでいる。今回はその中で「イノベーション教育」の知識・教養面を支える「FIT lecture」とイノベーションの現場を体験する「研究室インターンシップ」を紹介する。研究部主事の高木優先生、FIT実施担当の樋口真之輔先生にお話しいただいた。

 

学校とはイノベーション教育をするところ

「FIT lectureは、本校の一期生が4年生(高校1年生)になった2012年度に、前身となる取り組みが始まりました。神戸大学の研究者に来てもらい、自身の専門を話してもらったり、実験を体験したり、という内容です。現在では、神戸大学以外からも講師を招いたり、卒業生に来てもらったりもしています。」

 高木先生がFIT lectureが始まった経緯を説明する。SGHSSH指定以前は、基本的に4~6年生(高校生)が対象であった。現在では、1年生から6年生までの全学年が参加できる。主に1~3年生(中学生)が参加するプログラムも多いとのこと。

「参加のハードルを高くしすぎず、気軽に参加できるように、中学生向けの講義を講師の方にお願いしています。中学段階から、その研究分野でどのようなキャリアパスがあるのか、どうやって研究を進めていくのか、将来研究者になるための中高での過ごし方などを具体的に聞くことができる貴重な機会になっています。」

 放課後の実施のため部活動と重なる生徒もいる中、希望制ながら、一つの講座あたり10~40名が参加している。生徒によって好き嫌いが分かれる解剖の実験など、授業では収まりきらない内容にも取り組む。以下は、理化学研究所の岡部恵美子研究員による「獲得形質は遺伝するのか? ―親が経験した環境情報を子孫へ伝える小分子RNA」に参加した生徒の声だ。

「新しく知った考え方や調査方法、まとめ方をこれからのKP(Kobeプロジェクト)でも活かすことが出来たらと思いました。」(2年生)

「自分が知らないことが多かったけれど、わかりやすい説明で、興味を持つことができたし、研究者という職業も楽しそうだなと思いました。」(3年生)

同校ウェブサイトより一部抜粋

FIT lecture(岡部恵美子研究員)

 

研究室インターンシップ

 FITの優れたところは、知識を伝えるだけではなく、体験する活動も包括されているところだろう。講義を聴いたり、実験をするだけでは、実際の研究活動の姿は見えてこない。その一つが、神戸大学での「研究室インターンシップ」だ。4年生(高校1年生)を対象に、5月~2月の間4日間程度で実施される。コロナ禍で縮小していた2024年度でも90名が参加し、10以上の受け入れ先があった。25年度は受け入れ先をさらに増やすという。

「研究室ではルーチン作業を補助したり、大学の先生や大学院生とのディスカッションなど、研究室での仕事を体験します。これは実際に大学生になるまでなかなか知り得ない、中高で伝えるのが難しい部分です。華々しい研究成果も、地道な作業の積み重ねがになっていることは、進路選択の前に知っておくべきことでしょう。」

 樋口先生が話すように、研究者の現実を知っておくことは、その分野を志す生徒にとって、これ以上ない貴重な経験になる。それに加えて、近年の大学入試改革で、このような経験がそのまま入試に活かせる状況になっている。

「4日間の成果を持って、指導教員が参加する学会に連れていってもらう場合もあります。本校では全ての生徒が卒業論文に取り組みますが、『研究室インターンシップでの指導そのまま論文指導につながり、卒論の完成まで指導を受けることもできます。卒論の研究をそのまま大学進学後も継続した卒業生もいました。大学では、研究に意欲のある生徒が活躍しているようです。」

 

生きていく方向を見つける学び

 FITによって、学校全体がゆるやかに教育目標を共有しつつ、多くの取り組みを併走させている。逆に言うと、取り組みの総称にFITと名前をつけることで、バラバラになってしまいがちな個々の取り組みを、一貫性を損なわずにかつ高い自由度で実践できるようにした。優れた発明とも言える。高木先生がFIT全体の意義を次のようにまとめてくれた。

「FITの取り組みは、幅広く多くの分野にわたっていて、学年を超えて参加できます。そのため、どれかが生徒の知的好奇心に刺さるようです。高次元のイノベーションに触れることを通して、これからの時代に各自が生きていく方向を見つけてほしいと考えています。」

 講義を聴いて興味を持つことや、やりたいことが見つかる。それを、学校の課題に落とし込み、インターンシップでお世話になった大学の先生の指導を受けつつ卒論を完成させる。その実績、大学の推薦入試に挑戦する機会にもつながる。興味関心を昇華させていく、理想的な中高での学びではないだろうか。

 

進学館

 

神戸大学附属中等教育学校
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神戸市東灘区住吉山手5-11-1 TEL 078-811-0232

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