
生徒のみなさん(左から栗田絢音さん、岡田美乃浬さん、山口諒さん、原千慧さん)
関西大倉高等学校では、京都大学と連携して「野生動物学初歩実習」という探究学習に取り組んでいる。高1、高2それぞれで1年間かけて、動物学をテーマに、仮説を立て、観察して、検証する取り組みだ。成果は多方面の学会や京都大学で発表する。2年間、この取り組みに参加した高校2年生(取材当時)4名と担当する杉邨仁美先生にお話しいただいた。
関西大倉と北野高校の2校合わせた取り組み
杉邨先生「この取り組みが始まったのは、本校の卒業生で現在はイギリスのノッティンガムトレント大学の研究員である川口ゆりさんが、京都大学在学中に、北野高校の卒業生と一緒に『高校生と何かできないか』と模索したことがきっかけでした。」
杉邨先生が野生動物学初歩実習(以下、本実習)が始まった経緯を教えてくれた。この経緯があって、関西大倉と北野の2校が合同チームで活動をしている。昨年度、関西大倉からは、高校2年生4名と1年生6名が本校から参加した。5名の北野と比べると倍の枠だが、希望者は多く、かなりの倍率になるという。
杉邨先生「大学側の学生・院生の参加人数に合わせて、どうしても人数制限はあります。ただ、大学側にとっても、高校生の柔軟で既存の常識に縛られない発想や発見は良い刺激になるようで、コロナ禍を挟んで、10年続けて頂いてます。」
以前、京都大学では予算の問題から廃止の動きもあった。しかし、参加する学生・院生からの強い要望で継続が決まったという。自らの意志で、それぞれが興味を持ったことや好きなことに取り組む。そのような学びは大学生や高校生にとって、それ自体が魅力的なのだ。実際に、岡田美乃浬さんは、本実習を目当てに同校に入学したという。
岡田さん「小学生の時に、ダチョウの卵で強い抗体を作ることができるという話を聞いて、動物の持つ可能性に興味を持っていました。将来は研究者になりたいので、大学生になる前に研究を体験したいと思い、本実習がある関西大倉を選びました。」
学会でポスター賞と優秀賞を受賞
実際の1年間の流れを昨年度を例に説明しよう。4月にメンバーが選定され、5月以降は動物園での実習を行う。実習のはじめは1日自由に観察を行い、気になる動物や行動について話し合い、北野高生との混成の班で1つのテーマを決めていく。そこに調査方法などのアドバイザーとして京都大学の学生・院生が付く。また、本実習の経験者で他大学に進学した卒業生や、社会人アドバイザーも参加している。京都大学の施設を使わせてもらうことも多い。
杉邨先生「一つのテーマが何年か続くこともあります。以前は高2だけの参加にしていたのですが、単発ではどうしても深掘りに限界がありました。そこで、高1・2の2年間へと変えました。自由度の高い学びに取り組むことで、生徒は大きく成長します。」
7月以降は学会や京都大学での発表が続く。昨年度は、7月の日本動物学会でポスター賞、11月の日本人類学会では2つの発表で優秀賞を受賞した。「年々アカデミックになっている」そうだ。受賞した発表の一つ、フサオマキザルの社会性を研究した栗田絢音さんに、本実習を通して成長できた点をたずねた。
栗田さん「小さい頃から動物が大好きで、好奇心も旺盛でした。この2年間を通して、気になったことはなんでも聞いてみる、小さなことでも大きな成果につながるかもしれないと考える、という姿勢が身について、失敗をおそれないようになったと感じます。」

学会で優秀賞を受賞
現在の学習指導要領では探究的な学びが重視されている。テーマの選び方やロジックの組み立て、そして集めたデータの分析は大事なリテラシーだ。科学研究の進め方に興味があって参加したという原千慧さんは次のように感想を述べてくれた。
原さん「思いついた疑問点を、どういう手段で調べられるのか、具体的な研究の発想に触れることができました。統計を使ってデータを分析するところは、大学で学ぶ内容も教えてもらいました。」
好きなことと将来をつなげる学び
先述したように本実習に参加できる人数は限られている。しかし、参加した生徒が、探究の授業では中心的な役割を担い、他の生徒のレベルを上げてくれるという。
杉邨先生「総合探究の授業では、本実習を通じて得たものをクラスメートに教えてあげているようです。コンピューターの使い方もクラスメートにアドバイスしています。何より、教えることで本人たちの学びも深まります。獣医師や研究者を志望する生徒も増えてきました。」
探究学習の難しい点は、生徒に本心から興味を持たせることだ。そんな中で、好きなことや興味を持ったことに自主的に打ち込むクラスメートが身近にいることは大きい。今後、より高度になるAI時代に、個々の好きなことを学びや将来の進路につなげることは、中等教育にとってますます重要なテーマになっていく。山口諒さんの感想が印象に残る。
山口さん「高1では、調べやすそうなことをテーマに選んでしまって、かえって苦労しました。2年生では『好きなことをしよう』と、前から興味を持っていたゾウのストレス行動に原点回帰しました。難しそうでも本当にしたいことに挑戦する方が楽しいし、がんばることができたと思います。」