グローバル人材の育成が急務とされ、効果的な英語教育が各校で模索されている。積極的にグローバル教育を推進する雲雀丘学園が取り組むのは「CLIL型授業」というヨーロッパ発祥の新しい授業スタイルだ。いったいどのような授業なのか、グローバル教育部長・高砂千聡先生にお話を聞いた。
CLIL型授業が思考力を伸ばす
多言語のヨーロッパで生まれた包括的学習法
「CLIL(Content and Language Integrated Learning)」は、内容言語統合型学習と訳され、今日ヨーロッパで広く普及している教授法だ。日本では、理科や社会などの教科を英語で学ぶ英語教育のメソッドとして紹介されることもあるが、その本質は、言語と教科内容に等しく重みを置き、それらを同時に効果的に教えることに加えて、様々なレベルの思考活動や協働学習を柱にしたところにある。
「CLILは、まさに生徒たちが将来社会で求められる力を身に付けるための学習方法で、グローバル教育そのものの実践です。」
高砂先生がそう話す。CLILに取り組むきっかけは、CLIL型の授業が、英語の学習方法としても優れているだけではなく、授業で学んだことを使って身近な問題をとらえ直す面白さに気づかせてくれるものだったから。日本でのCLIL研究の第一人者、上智大学・池田真教授の研修授業を受けたことで、その思いを強くした。
「研修では、まず『熱の伝わり方』についての英文を読み、内容理解に必要な専門用語と既習の学習内容の確認をしました。そして、エアコン、薪ストーブ、ガスストーブ、電気カーペットなど様々な暖房器具の熱源や形状などの特徴を比較分類したのち、例えばリビングに置くならばどれがいいのか、ディスカッションをしました。一連のタスクを通じて、熱の伝わり方やコストなどを考えあわせるうちに、新たな発見があり、知識が活性化するのを感じましたし、何よりも設定されたタスクそのものを面白いと感じました。」
高次の思考が学力を高める
CLILでは4つのC(Communicationー言語技能、Content―科目の知識、Cognition―批判的思考、Culture―協働学習・グローバル課題への意識)を原則とし、これらを有機的に組み合わせて授業を展開する。特に重要なのはCognition(思考)で、下図に示されるような低次から高次までの思考活動をタスクとして取り込む。従来、ともすれば多くの時間を割いてきた「覚える」「理解する」は、いずれも低次の段階であり、CLIL型授業では多くの場合、導入で使われる段階である。
図 ブルームの教育目標分類
「机上で問題を解くのとは違い、課題を前にして自分たちで問題に取り組み、解決策を考えたり話し合ったりしたことが実際の社会で役に立つ力になるのです。CLILでは、授業の中でオーセンティックな素材を用いて、身近な問題やグローバル課題に対処する状況を作り出し、仲間と協働して思考の各段階のタスクに取り組み、高次の思考力を高めていきます。」
専門家も驚いた他教科との協力体制
今年3月、同校に池田教授を招聘し、CLILの勉強会を開催。4月にはCLIL推進委員が発足した。今年度は1年を5期に分けて、中1~高3までの学年で各期2~3回実践している。
「中学2年生で行なった俳句を題材にした授業では『古池や 蛙飛び込む 水の音』の英訳を4パターン提示して、各グループに英文からイメージされる絵を描いてもらいました。複数の蛙を描くグループや蛙は描かず水面の波紋だけを描くグループもありました。英語を通して俳句の一場面を切り取り、イラスト化することで蛙が何匹かという初歩的なことから始まり、次第に俳句の情景をより深く読み取ろうとする姿勢が生まれます。英語で学ぶことで理解が深まったり、新たな発見があったりするのもCLILの面白いところです。」
馴染み深い芭蕉の俳句に新たな発見が
各教科の先生方からも積極的な協力が得られ、教科の専門的な内容と英語とが統合された授業が実現している。他教科と英語科のチーム・ティーチングによるCLILは同校独自の方法だ。他教科からの協力の大きさにはいくつもの教育現場を見てきた池田教授も驚いているという。同校の「やってみなはれ」精神の面目躍如だ。
CLILという頭文字語が誕生したのは1994年とされている。世界的にもCLILはまだ始まったばかりだが、継続することで優れた教材やノウハウが蓄積され、年を追うごとに質・量ともに充実する。生徒の反応も総じて良好とのことだ。学ぶ楽しさが広がる新たな授業形式として、今後の発展の可能性を大いに感じた。