2020年の大学入試改革や次期指導要領で日本の教育は大きな節目を迎える。その一つが従来型の知識を覚えるだけの学習からの脱却だ。しかし、肝心の入学試験が知識だけを問うタイプのままでは、塾も学校も知識詰め込みを続けざるを得ない。今回紹介するのは、折り紙を配って解くという入試問題が話題となった滝川第二中学校「新学力観」入試。入試広報室の井口守先生・辻本将太先生にお話を聞いた。
問 ものさしや分度器、コンパスなどの道具を使わずに、折り紙を正三角形ABC(図1)の形に折りたい。どのように折ればよいですか。折り方の手順を分かりやすく説明しなさい。ただし、図を用いて説明してもかまいません。
図1
全国紙にも取り上げられて話題となった滝川第二中学校・AⅡ入試「新学力観入試」での折り紙問題。試験会場で折り紙を配って回収するという前代未聞の試験問題に、受験生も驚いていたという。
「試験後の休み時間に『どえらい問題が出た』と話している受験生がいました。実は、出題する私たちにとってもこの問題は驚きでした。」
井口先生がそう話す。同校がこの入試方式をスタートさせたのは、高大接続改革--いわゆる大学入試改革が判明した年だ。いち早く改革に対応する姿勢を示して、受験生へのメッセージとした。記述式を基本として、国語には社会的な内容、算数には理科的な内容が含まれる教科横断型となっている。
「特徴は、課題解決能力、物事を分析する力を問うところです。学んできた知識を、その問題にどのように活用できるのか、知識をその場で使えるのか、という生きる上での必要な力を見ています。例えるならば、目の前の壁を越えなければならない時、ハンマーがあれば壁を壊すという方法がありますし、ロープを使えば登ることもできる。そういう自由な発想ができる生徒を求めています。」
以前に、国語の問題では、文章を読み解きビルの位置を地図に図示する問題が出された。解答用紙の地図に答えを書き込む。文章に書かれている課題を分析し、自分の経験に基づいて答える。解答形式は幅広く、文章で答えるばかりではない。先述のように図示したり、冒頭の折り紙のように実物を使って答えるような形式もある。
「公式を当てはめるだけで解けるような問題は出しませんが、一生懸命に考えた跡の見える解答に対しては、たとえ答えが間違っていても、途中の考え方をできるだけ評価するようにしています。」
この方針を辻本先生は「滝二のAⅡ入試は優しい」と評した。決して問題が「易しい」わけではない。採点方針が「優しい」のだ。
「小学生が問題に40分間向き合ってある考えに至った、というのを評価したい。そういう愛情を持って採点しています。『よう頑張ったな』『ええ考えしてるやん』という答案に、できるだけ部分点をあげたいと考えています。」
解禁日午後入試ということもあってAⅡ入試の志願者数は右肩上がりだ。2016年度195人→17年度203人→18年度223人と導入以来3年続けて増加している。井口先生にAⅡ入試に合格して入学した生徒たちの印象をたずねると
「グループ学習やSW(スペシャル・ウェンズデイ)での取り組みでの活躍が目立ちます。取り組むべき課題のどこに問題があるのかを考えたり、それに対してどう解決すればいいのか、そういう工夫に強いように思います。」
SWは同校独自の取り組みで、毎週水曜日に教室・教科の枠にとらわれず、体験的・探究的な学びを行う授業だ。農園芸体験や講演会などの他、企業探求プログラム、進路探求プログラムの取り組みでは「クエストカップ」という全国大会に挑戦する。これは、実在の企業や社会、先人を題材に答えのない課題に取り組む「クエストエデュケーション」の大会で、企業から出されたミッションに対して、生徒たちが調査して考え、解決策を企業の担当者の前でプレゼンするなどの取り組み。同校は毎年のように出場し、上位入賞する常連校となっている。
クエストカップでのプレゼンテーション
最後にAⅡ入試を志願する受験生へのアドバイスをたずねた。
「『AⅡ入試対策』を特別にする必要はありません。課題解決力や分析力を問うという方針は共通ながら、毎年違う切り口での問題を考えているので、過去問が解けたからといって来年度の問題が解けるとは限りません。普段持っている能力を伸ばし、いろいろなことに興味を幅広く持って、勉強してください。新聞を読むことも友達と遊ぶことも大事。日常的に考えていることが解答につながります。」