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2018.11.30

グローバルな協働体験が生徒を本気にさせる
関西学院高等部(兵庫県 共学校)

 

SGHの指定を受けて5年。関西学院高等部は、SGUに指定される関西学院大学との連携のもと、グローバルリーダーを育てるプログラムに取り組んできた。実際にどのような取り組みが行われているのか、高等部副部長(教頭)の田澤秀信先生にお話を聞いた。

 

身近な問題が大きな社会問題へとつながる

教室に入ると、一台のノートパソコンを3~5人の生徒が囲んでいる。画面の向こうからは同じ人数のインドネシア・ハラパン高校の生徒がこちらを見ている。インターネットを介して、両校がリアルタイムに結ばれているのだ。生徒たちはマイクに向かって堂々とした英語で意思を伝えている。時には、スマートフォンやタブレットで調べ物をしたり、計算をしたりしながら、お互いにアイデアを出し合い、行動計画を練っていく。

「GLPの授業『Global Study Ⅲ』では、国際協力をキーワードに、ハラパン高校の生徒たちとお互いの共通のテーマを設定して、自分たちにできる身近な社会問題の解決方法を考えます」

関西学院のSGHは二つのプログラムからなる。一つはGGP(General Global Program)。もう一つがGLP(Global Leader Program)。GGPは全生徒向けのプログラムで、ディベートや研究論文の作成など、将来どんな進路を選ぶとしても必要とされるグローバル時代の素養を身につける。GLPは希望者が対象のグローバルリーダーを育てるプログラムだ。インドネシアは日本と同じく英語が母語ではない。お互いに第二言語を使うため、文法の厳密さやキレイな発音よりも、伝わることや伝える内容へと意識が向かう。

「同じテーマであっても、私たち日本人が考える問題とインドネシアで問題とされることでは大きく違いがあります。例えばゴミというテーマだと、日本では、いかに減らすか、が課題となりますが、インドネシアでは、いかにポイ捨てしないか、が課題になるようです」

ゴミ問題を考えたチームは、エコバッグの普及を目標に掲げ、製造・販売を企画した。その際に、インドネシアでは障害者の雇用がないという社会問題があることを知り、彼らの仕事になるようにプランを立てた。そしてそれをSNSなどで多くの人に知ってもらう。身近な問題を考えるところから、社会を変革する行動にまで生徒の意識が広がっていく。

「異文化、環境の異なる人たちと一つのものを作り上げる、というのは生徒にとって大きな経験です。幸い、現代にはそれを実現できるICTツールが揃っています。1回目の授業で『グローバルって何かわからなくなった』と言っていた生徒が、毎回の活動を積み上げてポートフォリオにまとめていく中で、自分なりのグローバルを見つけていきます」

年10回の「Global Study」の最後には、生徒自身で取り組みのまとめを発表する。学期の途中にもプレゼンテーションの場が何回かあり、生徒たちは回数を重ねるごとに、英語を話す自信や、どのようにプレゼンすれば効果的に伝わるのか、などのコミュニケーション力を高めていく。グループの中で生徒が自主的に動くようになり、スピーチを担当する生徒、webで発信する生徒、リサーチの得意な生徒、というようにそれぞれが得意分野を見つけていく。

「本校の生徒は、感想文などを書かせると、とても上手にまとめたものを出してきます。ただ、そのような学びでは生徒に深い感銘を与えられないと考えていました。本当に生徒たちの心に残るもの、成長させるものは何かと考えて、このプログラムにたどり着いたのです。文化の異なる仲間と協力して、未知の課題に挑戦して、正解かどうかわからないけど答えを出す。キレイなだけのまとめでは発表時の質問や批評に耐えられません。このような学びが、生徒に本当の気づきをもたらし、思いを引き出すことができると感じています」

画面の向こうはインドネシアだ

 

グローバル時代にもっとも必要な自律の力

SGUとSGHによる高大連携。ここ5年間の関西学院高等部はそう表現される取り組みを行ってきた。しかし、その表現は事実ではあるが正確ではない。同校は、まだ世の中に「グローバル」という言葉さえ浸透していない時代に、英語教育、読書指導、大学受験だけを目的としない全人教育といった、今で言う21世紀型教育を推し進めてきた。

「ベースにあるグローバル教育は、本校にとって新しいものではなく、ずっとやってきたことです。本校独自の読書科の取り組みなどは50年前からのもので、専門の教員が3人もいます。グローバル教育は英語だけではありません。もっとも身につけるべきなのは、自分を律する力だと考えています。自分の頭で考えて、友達や教員を巻き込んで議論し、行動する力こそが、本校がグローバル教育で目指すものなのです。それは、どんな時代になっても必要な力でしょう」

新たに導入したタブレットの使い方に関しても、同校は基本的に制限を課さず、教員と生徒代表のICT委員がルールを決めている。教員はアドバイスをすることに徹して、基本的には生徒の自律に任せているという。受け身ではなく、意見を発表し、議論し、行動するーー受け継がれてきた同校の伝統が、グローバル時代にあるべき教育の道筋を示してくれているように思えた。

 

関西学院高等部
https://www.kwansei.ac.jp/hs/
兵庫県西宮市上ケ原一番町1-155 TEL 0798-51-0975

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