早くから先進的な教育を実践してきた神戸大学附属。SGH指定校となった現在、探究型学習の軸となるのは「Kobeポート・インテリジェンス・プロジェクト(略称:Kobeプロジェクト)」だ。その取り組みについて、副校長・勝山元照先生、グローバル教育推進室長/指導教諭・岩見理華先生にお話をうかがった。
--台湾の人たちが親日的なのは植民地時代の教育に原因があるかもしれない?
--水拭き掃除は本当に清潔なのだろうか?
--コンクリートにオガクズを混ぜると環境に優しい建材になるのでは?
--下水を再利用して農作物を水耕栽培することはできないだろうか?
これらは全て神戸大学附属中等教育学校の生徒がKobeプロジェクトの卒業研究を通して抱いた疑問だ。身近なものから、地球環境、歴史まで、とても興味深いテーマが並ぶ。勉強とは、本来、このような知的な面白さを深めていくためにあるのだと再認識させられる。とはいえ、中学生に「探究的に学びなさい」と指示するだけでできるものではない。勝山先生は次のように話す。
「卒業研究の取り組みは6年前からです。当初は学校側も手探りで、優秀な作品も生まれた反面,コピー&ペーストに頼るような生徒もいました。ですが、先輩の優れた研究から次の学年が刺激を受けてより良いものを、という好循環が徐々に生まれました。」
現在では、探究型学習のモデルとして、多くの学校から見学者が訪れる。この6年間の成果は、卒業研究の指導をお願いしている神戸大学発達科学部の林創准教授の編著で近々出版予定だ。(『中等教育における探究的な学習とその実践 ―課題研究で育まれる力―』学事出版 )
Kobeプロジェクトは週1回、3・4年生は2時間の連続授業。1・2年では「Kobeプロジェクト入門」としてリサーチリテラシーの基礎「聞き方」「話し方」の練習から始める。発表も紙芝居や壁新聞などの取り組みやすいものだ。3年になると「課題学習」(グループ)、4年では「卒業研究入門」(個人)として、先輩たちの先行研究を調べたり、研究計画を立てたりと本格的になる。5・6年「卒業研究」では週1時間に減るが、授業はゼミナール形式で、それぞれの生徒が調べてきたことや考えたことなどを順番に発表し,互いに批評しあう。多くの生徒は授業時間内では足らないので,放課後や夏休みなど自分の時間を使って取り組む。成果は4年で8千字の習作、5・6年で1万8千字の論文にまとめて発表する。
「3・4年の段階では、まだ広く浅い課題設定ですが、最終的には、単に調べたことを要約するだけではない、生徒にとって価値ある研究へと仕上げていきます。もちろん大学ではないので『深い学びとはこういうものだ』と体験し実感することが主眼となります。」
一部の保護者からは今でも「大学受験にマイナスになるのでは」という不安の声も聞かれる。それでも同校は、Kobeプロジェクトを卒業要件として全員必須としている。勝山先生は言う。
「従来の日本の教育では、教育基本法で『自立』を謳いながらも、実際には受け身で自己主張をしない人を作ってきました。一方で、世界に目を転じると、1950年代までは日本と同じような一斉授業が主流だったものの、それ以降は主体的・能動的な人を育てる教育へと変わってきました。世界的に進行している教育の静かな革命に、日本は取り残されています。」
これからの時代、皆が周りの様子を伺って空気を読むばかりでは、グローバルな変化について行けない。多少間違っていてもまず自分の意見を主張し、その後のやり取りの中で調整したり修正したりする行動力が重要になるだろう。岩見先生は次のように指摘する。
「コンクリートにオガクズを入れる実験をした生徒は、東京大学の推薦入試に合格しました。大阪大学の世界適塾入試や関西学院大学のSGH公募推薦入試でも本校生徒は強みを発揮します。『卒業研究と比べれば慶應義塾大学の小論文入試は簡単だった』と言った卒業生もいました。」
このように実績としても表れてはいるものの、もちろんKobeプロジェクトは大学入試のための取り組みではない。卒業生からは「(Kobeプロジェクトに比べて)大学の教養の講義が物足りない」という感想や、批判的に考え、問いを立てる力をゼミ仲間から賞賛された、という体験も報告されている。大学やその先の社会で生きる本当の学力が身についている。
「『1万8千字なんてとても書けない』と言っていた生徒が卒業後に『長い文章を書くことが苦でなくなった』と言います。探究型の学びはすぐに結果が出ないので、保護者の焦る気持ちや不安はよくわかります。しかし、一見無駄に思えることの中でこそ、生徒は大きく育つのです。我が子を信頼して辛抱強く見守ってほしいと思います。」