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2024.2.9

[なぜ学びが変わるのか?] 第13回 新しい学びの成果

 

 

2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されました。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回は、国際的な学力調査に現れた新しい学びの成果についてです。

 

PISA2022調査で日本の順位が上昇

 とても嬉しいニュースが届きました。国際的な学力調査であるPISA2022で、日本の子どもたちが好成績をおさめ、世界的な順位も数学的リテラシー5位、読解力3位、科学的リテラシー2位(OECD加盟国中では、数学的リテラシー1位、読解力2位、科学的リテラシー1位)と上がっています。もともと強かった数学、科学に加えて、日本の生徒がどちらかと言えば弱点としていた読解力の順位が上がったことが、今回の大きなポイントです。

 OECDによる分析では「新型コロナウイルス感染症のため休校した期間が他国に比べて短かったことが影響した可能性がある」と指摘されていますが、多くの国々がコロナでの休校を受けて登校に遜色ないオンライン授業を実施したことに比べると、日本のオンライン授業は不十分※1であり、休校期間を順位変動の理由とするのは難しいように思われます。

※1 EdTechZine「日中米における休校中のオンライン授業実施率、米中は9割を超える一方で日本は低い水準」

 

正しい方向性での改革

 では、日本の子どもたちの読解力が上がった要因はどこにあるのでしょうか。それは、やはり、2020年以降の学習指導要領が目指す方向性にあったと考えるのが自然に思えます。今般の指導要領はいわゆるPISA型学力の傾向が強く、それは世界的な教育改革の流れにも沿ったものでした。つまり、知識を覚えることや理解することから、知識を前提に考えたり、表現したりすることに重点を移した教育の方向性です。

 近年、文部科学省が進めてきた教育政策について、国立情報学研究所の新井紀子教授は「これが思考力・判断力・表現力なんだという明確なメッセージが定着し始めた4年間だった。日本が今やっている方向性は正しいということが、科学的に調査結果として出てきた」※2と指摘しています。

※2 NHK NEWS WEB「子どもの国際学力調査 日本は順位上昇 世界トップレベルに」

 

「ゆとり教育」からあった上昇傾向

 2003年、2006年のPISA調査では特に読解力において日本の順位が大きく下落し「PISAショック」とも呼ばれました。この時の学力低下について、いわゆる「ゆとり教育」を原因とする論調が一部見られましたが、そのことを示す確定的な評価はなく、逆に「ゆとり教育」とともに始まった「総合的な学習」に取り組んだ学年から、PISAでの順位が上昇傾向にあったことがわかっています。※3

 そして、総合的な学習の延長上に、探究学習やアクティブラーニングを中心とした現在の教育改革があるのです。日本の教育改革はICT導入では他国に遅れをとったものの、20年来、正しい方向に進んできたと言えるでしょう。今後も、この方向性での学びをいっそう拡充してもらいたいものです。

※3 本誌 [change2020 第1回]総合的な学習から探究・ALへ 世界の課題に挑む子供たちを育てるために(関西大学 黒上晴夫教授)

 

より人間らしい学びを

 そもそも、総合的な学習に始まった探究学習への取り組みは「学校は学びを放棄します」ということではありません。放棄すべきなのは、子どもたちが興味を持てないような事柄を機械的に覚えさせ、それを紙の上に再現するだけの作業で成績を付けることです。このような単純な知識の記憶・再現という分野では、人間は絶対にAIに勝てません。これからの時代を生きる子どもたちにとっては年々不要になっていく能力なのです。

 一方で、人間には「興味を抱く」「楽しいと感じる」というAIにはない能力があります。そのような特性を持つ人間にとって、興味があることを、調べ、考え、まとめたことを表現する、という学びの方が学力が伸びるのは当然なのです。

 しかしながら、今日でもまだ、家庭にも教育現場にも「それぞれの興味のあることを、楽しみながら、みんなでわいわい学ぶ」ことを否定する空気が残っているのも事実でしょう。「嫌なこと、苦手なことを苦労しながら克服するのが勉強」という考えが変わらなければ「PISAショック」は何度でも起こり得るのではないでしょうか。

 

ミライノマナビ編集部

ミライノマナビ編集部

グローバル化&AI化が子供たちにとって明るい未来となってほしい。来るべき未来に対して教育は何ができるのか、子育て世代やこれから社会に出る若者たちみんなが考えるきっかけを提供していきます。

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