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2025.5.30

[なぜ学びが変わるのか?] 第18回 AIが東大理Ⅲに合格する時代の学びとは

2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されました。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回は、AIが東大理Ⅲに合格したことを受けて、これからの教育のあり方を考えてみました。

 

ついにAIが東大理Ⅲに合格

 驚きのニュースが報じられました。AIの最新モデルの一つであるChatGPT-o1は、東京大学理科Ⅲ類に合格する点数を獲得した※1というのです。このAIは、医師国家試験といった最難関レベルの資格試験でも画像問題を除き98.2%の高い正答率を出しました※2

 本誌が創刊した当時、新井紀子教授の「東ロボくん(AIを東京大学に合格させるプロジェクト)」は、模試の偏差値57、MARCHであれば合格できる学部もありました※3。大学受験に挑む高校生のうち平均点以下の子どもたちがすでにAIに負けているというのはショッキングではありましたが、当時の雰囲気として「一問一答やマーク式ならともかく、東大や京大レベルの高度な入試問題ではまだしばらく人間が上だろう」というある種の安心感も残っていたと思います。

 

どこかで見た風景

 かつて、1996年に、チェスの世界チャンピオンがコンピューターに敗れた、という出来事がありました。衝撃的なニュースでしたが、当時も「囲碁や将棋のような、より複雑なゲームでは人間に勝つのは難しい」と、コンピューターの限界を指摘する声が多くあったのを覚えています。

 しかし、コンピューターの進歩がチェスの段階で止まらなければならない理由はありません。その後、コンピューターは、囲碁でも将棋でもプロの棋士を打ち負かしました。この歴史と同じことが、入学試験というより汎用性の高い分野で繰り返されたのです。

 

人はAIに負けたのか?

 今後、より多く分野で同じ歴史が繰り返されていくでしょう。では、ますます「賢く」なっていくAIに対して、人間はもはや勝てないのでしょうか。子どもたちの勉強は無意味になるのでしょうか。この問いを考えるには、次のエピソードが示唆に富んでいます。

 コンピューターがチェスの世界チャンピオンに勝った時、言語学者のノーム・チョムスキーは「ブルドーザーが重量挙げで優勝したのと同じ」と評しました。

 ブルドーザーを手に入れた人類は、腕力では機械に敗れたものの、より少ない人数でより大規模な工事ができるようになりました。ブルドーザーを使うことで人間の「工事をする力」は増大したのです。

 この例えが教えてくれるのは、現在の状況は「子どもたちが学力でAIに負けた」ということではなく、「AIを使えば誰でも(現在の)東大理Ⅲ合格レベルの学力が得られる」ようになったということなのです。

 

学力観が変化し学びも変わる

 もちろん、東京大学もいつまでもAIが高得点を獲得するような入試に留まっていないでしょう。日本の大学入試はすでに変化の方向に進んでいます。国立大学協会が「学力試験以外での選抜による定員を3割にする」との目標を掲げたのは10年も前のことです。以来「総合型選抜」が増え、2021年度には、一般選抜で大学に入学する学生が50%を割り込みました。年々その比率は下がり続けています※4

 このことから、目先の大学入試を考えても、その先の社会での活躍を見据えても、正解がすでにあるような知的作業で高得点を取るための学びは、特定の趣味的な分野を除いて、価値が下がっていきます。代わって価値が上がるのは、自らの体験したことや考えたり感じたりしたこと、そして、それらを基にして、何を作りたいのか、どんな世の中にしたいのか、などの「思い」です。

 自らが興味を持ったことから課題を設定して取り組む探究学習は、このような意味で、今後、学びの中心となっていきます。さらに、次期(2030年)の学習指導要領ではAIの存在が前提とされています。「子どもに使わせるとズルをする」程度にしかAIを捉えていないようでは、繰り返されるテクノロジー発展の歴史に置いていかれかねません。「人間+AI」の総体として学力を伸ばす発想が求められるのではないでしょうか。

 

※1 「東京大学に生成AIは合格できるのか」 株式会社LifePrompt
※2 “From Medprompt to o1: Exploration of Run-Time Strategies for Medical Challenge Problems and Beyond”, Harsha Nori他
※3 新井紀子 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社 2018
※4 後藤健夫 「第27回 選抜方式の推移から見えてくる求められる学力の変化」大局観で教育を考えるー国際バカロレア教育とこれからの教育 ミライノマナビコラム

 

ミライノマナビ編集部

ミライノマナビ編集部

グローバル化&AI化が子供たちにとって明るい未来となってほしい。来るべき未来に対して教育は何ができるのか、子育て世代やこれから社会に出る若者たちみんなが考えるきっかけを提供していきます。

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