前回のコラムでは、「目標創出型・学習者中心型」の授業は、人は元来「能動的で有能である」ことを前提にしていると紹介しました。今回は、そのような前提に立った上で、学びのゴールを見直し、そのゴールに向けてうまく学ぶための条件はいかなるものかについて紹介します。
新しい学びのゴール
第1回のコラムでこれからの学校教育では、「何を知っているか」から「何ができるようになるか」へ学びのゴールを変えていく必要があり、そのために「目標創出型・学習者中心型」の授業へのシフトが必要だと紹介してきました。学校の教室で「学んだこと」は、その後の日常生活で問題に直面したときや、仕事で新しいアイディアを開発している時に役立ってほしいものです。第2回のコラムで紹介した三宅なほみ教授は、ロイ・ピー教授とともに、学習の目標は次の3つの性質をもつべきだとまとめています。
・可搬性(portability):学習成果が、将来必要になる場所と時間まで「もっていける」こと
・活用可能性(dependability):学習成果が、必要になった時にきちんと「使える」こと
・持続可能性(sustainability):学習成果が、修正可能であることを含めて「発展的に持続する」こと
三宅なほみ教授は、この3つの性質について『21世紀型スキル 学びと評価の新たなかたち』(北大路書房, 2014年)の中の書き下ろしの章で詳しく解説しています。
学校の授業という単位で考えれば、「可搬性」はある授業でできるようになったことをその授業の中だけで「おしまい」にしないで、他の授業を受ける時に役に立てたり、社会に出て仕事をする時に活用できたりすることを意味しています。簡単に言えば長期保存なのですが、自分の経験に裏打ちされていたり、後から新しく学んだこととつながりがつけられたりするとより良いと述べています。
学習成果が必要な場面で役に立つかどうかを問う「活用可能性」は、学力試験で使えるという狭い意味での「活用可能性」から、職場や日常生活の場で新しい問題に対処するような広い意味での「活用可能性」まで幅があります。「そのまま使えて教室でやったのと同じ類いの答えが出せるかどうか」ではなく、別の場面で「これ使ったらできるんじゃないか」と学習成果を引っ張り出してきて果敢に使ってみる、というような積極的な活用ができるかどうかが大事だとされています。このような活用が特定領域で深くできるようになった状態を、第2回のコラムでも紹介した「適応的熟達者」と言うのでしょう。
3つ目の「持続可能性」は、学んだ成果を発展的に少しずつ変化、あるいは変質させ続けられることを目指しています。獲得した知識は、たいていの場合、いつまでも同じ形で役立つものではありません。新しい理論や技術開発が生み出されれば、そのたびに古くなった知識を新しく更新しなければなりません。この場合、更新されて新しい場面で使われることで知識が深まり、そこからさらに発展的な次の問いが生まれやすくなると指摘しています。こういう知識の更新や拡張ができることも「学び方の学習」の一つとも言えるでしょう。
うまく学ぶための条件
それでは、新しい学びのゴールに向かうために「目標創出型・学習者中心型」の授業に、どのような学習活動が埋め込まれていると効果的なのでしょうか。三宅なほみ教授は、新しい学びのゴールに向かうことができていた学びの場面の事例から、以下の7点にまとめています。
・参加者が共通して「答えを出したい問い」を持っている
・問いへの答えを、一人ひとりが、少しずつ違う形で、最初から持てる
・一人ひとりのアイディアを交換し合う場がある、言い換えれば、みんな自分の言いたいことがあって、それが言える
・参加者は、いろいろなメンバーから出てくる多様なアイディアをまとめ上げると「答えを出したい問い」への答えに近づくはずだ、という期待を持っている
・話し合いなどで多様なアイディアを統合すると、一人ひとり、自分にとって最初考えていたのより確かだと感じられる答えに到達できる
・到達した答えを発表し合って検討すると、自分なりに納得できる答えが得られる
・納得してみると、次に何がわからないか、何を知りたいか、が見えてくる
みなさん、いかがでしょうか? 三宅なほみ教授によると、このような活動は、大人であっても幼児であっても共通しています。このような7つの特徴をもつ学習活動を教室の中で引き起こすことが、「目標創出型・学習者中心型」で求められるでしょう。
次回は、このような学習活動がなぜうまく学べることにつながるのかの理論的背景と、このような学習活動を引き起こすために開発された「型」(授業方法)のひとつである「知識構成型ジグソー法」を紹介したいと考えています。