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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2024.11.15

第27回 「NEXT GIGA」で考える自由に学習方法を選択できる授業の実現

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
青山学院大学 教育人間科学部 教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

一人一台情報端末の授業活用にともない、子供たちが興味・関心、能力・特性等に応じて自ら教材・方法・ペース等を選択できる授業実践が再び注目されています。今回は、その功罪について考えていきます。

 

子供たちが主体的に学ぶとは?

 「令和の日本型学校教育」では、協働的な学びと個別最適な学びの一体化によって、主体的・対話的で深い学びを実現することが重要だとで謳われています。そのような中、一人ひとりが主体性を発揮して、個に応じた学びを実現するために、どのような教材を参考にして学習するのか、情報の整理にデジタルを使うのかアナログを使うのかの選択、一人で学習に取り組むのかグループで学習に取り組むのかなど、学習者が学びたい方法やペースを選びやすくすることが、一人一台情報端末の整備だと言われています。

 確かに、私たち大人は、ある事柄について学ぶときにどのようにして学ぶのかの「学び方」の選択主権自分自身にあり、学習方法を選択しながら学習する積み重ねは民主社会の一員として重要かもしれません。しかしながら、そのような「学び方」を高い質に保ちながら自身でコントロールして実行可能な状態というのは「最終的な理想の学習の姿」でしょう。日々の授業で学び方をおまかせした際に、子供たちが「見せている学習の姿」は、まだ成長途中であり、本当に本人にとって理想学び方かどうかは、本人自身必ずしも評価することができないという点には注意が必要です。以下で具体的に見ていきましょう。

 

子供たちの「行動レベル」ではなく「認知レベル」に基づいて

 ある学校で自由進度学習である複線型授業を参観したときのことです。その授業は社会科でした。教科書を見ている生徒もいれば、資料集やインターネットを調べている生徒もいます。端末上にまとめを作成している生徒もいれば、プリントやノートに整理している生徒もいます。一人で活動している生徒もいれば、グループで活動している生徒もいます。どの生徒も見た目は懸命に取り組んでおり、ぼーっとしているような生徒は一人もいません。「行動レベル」で評価すると、どの子もその子が取り組みたい学習方法で学習に真剣に取り組んでいるように見えす。

 しかし、この状況で一人ひとりの思考過程である「認知レベル」に着目すると、様子が変わってきます。学習者中心の授業であるものの、書いて整理している内容が「どうしてそうなのかの理由や背景、関連など自分で考察し整理している」ような「目標創出型・学習者中心型」の活動の生徒と、「単に書き写しただけ」の「目標到達型・学習者中心型」の活動の生徒とで分かれてしまっているのです。

 それに対して教師は「その子の学び方だから、まずは書き写すことができていることも学習として大事だ」と、放置してしまっている場合も散見されます。これは本当に、個別最適な学びを実現しているのでしょうか。子供たちによって「どこまでまとめれば学習のゴールなのか」の認識の違いによって必要感が異なり、また選んでしまった方法のデメリットによって活動に制限が入ってしまっている可能があります。教師の役割としては、その子に学び方をおまかせするのではなく、本時や単元の目標に向かって、「深い学び」を実現していくために、一人ひとりの学び方を見取って支えていくような支援が重要となるのです。

 主体的な学びとは、子供たち取り組みたいことを「おまかせ」することではなく、教師が目標としていることに向かって、子供たちが取り組みたい方向と同じになることが重要です。そのため、教師の役割としては、深い学びが実現するよう学習環境をデザインし、支えていくことです。これは「機能的学習環境論」とも呼ばれています。そのような学習環境を構築し提供するには、子供たちが主体的に学び深めてほしい領域内容の深い理解、教材研究が大事になってきます。

 

機能的な学習環境をデザインした上で「学び方の学び」を支えていく

 子供たちが持っている「学ぶ力」を単に使わせている授業では、その子の学習特性、性格だからと、これからの育成可能性・学習可能性が無視されています。そのようなかたちで授業を続けてしまうと学力差が開いてしまい、習熟度別学習が同一の教室で行われているだけとなってしまいます。生徒の学ぶ力を育成する視点を持っている教師は、複線型授業であっても、授業の目標を明確にした上で、一人ひとりなりに深い学びが実現されていくよう、学習過程を丁寧に見取って、一人ひとりの状況をチェックリストでチェックしながら必要に応じてアドバイスをするなど目標に向かっていくよう支援をしています。また、デジタルとアナログの選択についても、情報共有と比較が必要な授業回であればデジタルを活用し、対面で対話しながら図式化し全体を俯瞰する必要があればアナログを活用するなど制約を設け、選択肢があったほうが学びがより広がると判断したときに自由に選択させるなど、使い分ける必要があります。一人で学ぶかグループで学ぶかの選択も、一人での学びにおける思考の偏りや、友達のよりよい学び方や考え方に出会わせたほうがいいと判断した場合には、対話の機会を用意するような工夫も行います。

 単に「おまかせした学び」の視点ではなく「学び方を育てる」の視点での授業づくり、カリキュラム設計が大事になるのです。例えば以前、本コラム第4回「うまく学ぶための条件をいかした授業づくり」第5回「主体的な学びを引き出す授業——知識構成型ジグソー法実践事例」でも紹介した「知識構成型ジグソー法」では内容理解と同時に対話を通した深い学びの「学び方」も育成することができます。そのような授業回を入れつつ、学び方が育っているかどうか確認する授業回として「複線型授業」を設定していくような、中長期的な子供たちの「学び方の学び」の視点で、カリキュラムや単元を設計していくことが鍵となります。学校教育において、どの子も「目標創出型・学習者中心型」の中で、良い学び方の学びの経験を繰り返し蓄積していくことを通して、「最終的な理想な学習の姿」を育むことが大事になっていくでしょう。

 

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