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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2023.9.15

第22回 AIの進化で共通テスト「情報」はどうなるか

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

OpenAI をはじめとする「生成AI」の発展が話題になっている。本コラム第20回ではこのAI(人工知能)の進化にともなってどのような対応が必要かを述べたが、今回は大学入学共通テスト(共通テスト)で2025年度から導入される「情報Ⅰ」への影響を考えてみたい。

 

ますます高度化する教科「情報」

 情報処理学会をはじめ関係者が共通テストへの情報科目導入を切望していた。大学入試で扱われなくては高校での情報教育が十分に浸透しないからだ。一方で、高校現場はどうかと言えば、教科「情報」の教員免許を持った教員の不足が深刻になっている。情報の免許取得者の多くは他教科との複数教科の免許を持った人たちだ。これにはやむを得ない事情がある。商業科など専門学科ならまだしも、普通科では担当する授業が少ないから自ずと他教科との掛け持ちになりがちなのだ。そうした事情があったとしても情報科の教員が足りないのは事実である。ゆえに授業もままならないところがあるのだろう。さらに今回の学習指導要領の改訂で高校の「情報」の内容は格段に高度化している。

 「情報」に関しては小学校、中学校でも今回の学習指導要領で一気に進化している。中学で新しい学習指導要領に準拠した「情報」を学んだ生徒が、2024年度(来年度)高校に入学してくる。高校現場にはより高いレベルの授業内容が求められる。

 

生成AIの進化で「情報Ⅰ」はどう変わる?

 さて、具体的に共通テストで出題となるとどうだろうか。

 こうした「情報」を取り巻く新たな制度や必要な環境整備を考えると、プログラミングに限らず「情報Ⅰ」は検定教科書及びそれに基づく授業の内容、共通テストの出題、そして、現実に起きていることの3つがうまく噛み合わない可能性が十分にある。情報技術の分野では、具体的な事象に限らず、これまでの概念が明日にでもひっくり返ってしまうことも起こり得る。教科書検定には時間がかかる。共通テストの出題準備も単年度では終わらない。こうした状況で「情報Ⅰ」は、授業でなにを学び、共通テストではどんな能力を測るのだろうか。

 たとえば、生成AIの登場は「情報Ⅰ」を取り巻く様相を大きく変えた。大学入試センターも頭を悩ましているだろうが、重要なのは、いかに普遍的な思考を問えるかではないだろうか。

 情報教育に精通した高校の教員のなかには、OpenAIによるChatGPTの登場で「プログラミングを教える必要がなくなった」と言う人もいる。確かに簡単なプログラムであれば「日本語」で書いて実行させることができてしまう。情報を専門としていないがプログラムを必要とする研究者の中にもそういった使い方をする人も出始めている。実際にプログラムを書くことよりも、プログラムを書く準備として重要な「要件定義」をすることに慣れることが大事だといった高校の現場からの意見も聞く。

 

そもそもなぜプログラミングを学ぶのか?

 そもそもプログラミングをなぜ学ぶのか。そこに立ち返ると良いだろう。

 例えば、プログラミングの原理的な考え方だ。具体的な事象を構造的にとらえて、それをプログラムという抽象に落とし込む。その抽象的な考え方を他の事象に当てはめて具体的に活用する。いわゆるモジュール化したプログラムの転用だ。

 これは、共通テストの数学や前回のコラム「第21回 経験から学ぶ――CAS(創造性、活動、奉仕)」で触れた「構造化・抽象化・転移」ではないか。プログラミングの要諦はこの「構造化・抽象化・転移」なのだ。この話をIT企業の経営者に話したら膝を打って納得していた。つまり、共通テストの数学のような最後に思考の転移を求めるものをプログラミングの中で問うようになることは十分に考えられる。

 そのためにもIBのCASのように日常的にコルブの経験学習の理論のサイクルを回して「構造化・抽象化・転移」に普段から慣れておくことが、細部が変わっても対応できる学力になるのではないだろうか。

 IBで学んだ生徒たちはTOKを通して、このように「そもそも」に立ち返って考えることに慣れている。出題の予想をするよりも、こうした根源的な問いから教科「情報」を見つめてみると、共通テスト「情報Ⅰ」で問われる力は何か、引いては社会が求める情報の学力は何かがくっきりと浮かび上がってくる。

 

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