前回、大学の学力観が変わり、一般選抜から総合型選抜への移行が起きていると述べた。だが、東大や京大はさすがに明快だが、多くの大学で、総合型選抜では「なにを」「どのように」評価しているのかが、受験生にわかりにくい。関西大学のAO入試のガイドブックがこの点を受験生にわかりやすく示していたので、それを紹介したい。
「3割目標」から10年
前回「第27回 選抜方式の推移から見えてくる求められる学力の変化」では、大学の教育観が変わったと述べた。大学教育において多様性を求められるようになり、学力試験だけでは「大学教育にふさわしい」学生を確保できないことが課題となっている。そこで「学習意欲」をなんとか評価しようとする「総合型選抜」の定員を多くする大学が増えており、その結果、従来、大半を占めていた学力試験中心の一般選抜による入学者が全体の半数以下になった、というのがその変化だ。国立大学協会が、学力試験以外での選抜による定員を3割にする目標を掲げて早くも10年になる。東北大のように将来的には入学者の100%とする計画を立てている国立大学もある。
なぜ東大生・京大生がハーバード大生やMIT生に見劣りするのか
この流れを象徴するエピソードがあるので、紹介したい。
もう10年近く前の話になる。東京大も京都大も、いま行われている学校推薦や特色入試を検討している頃の話だ。
京都大は、当時の松本紘総長が「後期試験に代わる選抜試験」の導入を検討していた。私も松本さんから直接相談を受けていた。しかし、担当副総長はあまり乗り気ではない。現状の試験で十分だとの判断だった。ところが、ある時、この副総長は自身の認識を一変させる質問を受けた。それはこんな質問だった。
「東大や京大の入試問題は、世界一よくできていた、とても難しい出題かもしれない。しかし、卒業生の活躍を見てみると、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)に見劣りするのはどういうことか。入試がおかしいのではないか」
副総長にこの疑問をぶつけたのは、我が国の国家公務員の人事を管理する「人事院」である。
このひと言で、副総長は考えを改めて、特色入試を設計したのだ。研究大学にふさわしい審査内容を設定している学部もある。これは、国際バカロレアの授業で扱われることもある研究に結びつくような「Research Question」に取り組んでいる受験生にとっては馴染み深い審査内容である。
総合型選抜では「なにを」評価されているのか
東大の推薦でも京大の特色入試でも、なにをどのように審査するのかを明確にしているが、多くの大学の総合型選抜や学校推薦型選抜では「どのように」は明確になっているものの「なにを」が抽象的であったり明確にしていなかったりするため、SNSなどでは合格体験談に基づく情報が横行しており、どんな準備をしたら良いのかがよくわからないといった話をよく聞く。
そもそも大学入試は「大学教育にふさわしい準備」ができているかを、これまでの受験生の「実績」を評価して判断するものだ。だから「なにを」に相当するものは「実績」と言えるが、学力試験であればわかりやすい。出題された問いに取り組めば良いし、過去の問題もたくさんあるから問題集もある。それに評価の方法は、多くは出された問いに正解するかどうかだ。
ところが、総合型選抜では「なにを」評価されているのかわかりにくく、そもそもなにが正解なのかがわからない。これは小論文や面接試験でよくある話だ。
そこで、紹介したいのが、関西大学の総合型選抜(AO入試)の冊子だ。
ここには各学部の教員が「なにを」「どのように」審査するかのポイントが明確に書かれている。さらに「評価者(面接員)のコメント」が掲載されており、どのような準備をしておく必要があるかがわかる。
たとえば、理工学部数学科では評価ポイントとしては「受験生本人のアピールしている内容が、数学の専門教育を受けることにどのように関係し、どのように活かされるのか」「数学Ⅲの内容を十分にマスターしているか」などが明記され、面接員のコメントでは「履修状況や成績だけでなく、学習に対する意欲、将来展望などが数学に取り組むのにどのように活かされると期待できるかを評価しました」など、実際の選抜で評価者がどこを見て評価したのかが書かれている。
志望大学や学部に関わらず、この冊子を読んでおくと、「大学教育にふさわしい準備」とはなにかがよくわかるので、お薦めしたい。高校での「総合的な探究の時間」が授業時間数も少なく、うまく運営されていないケースがまだまだ散見するが、探究活動のテーマや取り組み方に、どのようなところに気をつけて取り組んでいくと効果的かもわかってくるだろう。
どのような研鑽を積んで「実績」とするのか。学力試験では審査できないものを限られた時間で準備して、いかにクリアしていくのか。
そのための戦略を立てるために、関西大学のこの冊子はとても参考になるのではないだろうか。