新しい学習指導要領がスタートし、アクティブラーニングや探究学習など、新しい形の学びに各校それぞれ取り組んでいる。ところが、これまでの教室は旧来の授業を想定して設計されたもので、新しい学びに最適なわけではない。そこで、アクティブラーニングをより効果的に行うため、ICT環境を整え、グループ学習に最適な座席を配置したラーニングコモンズが活躍している。今回は親和中学校・親和女子高等学校のラーニングコモンズを紹介する。新校長の中村晶平先生と山科祐一先生にお話しを聞いた。
大学レベルのスペック
2019年4月に完成した親和中学校・親和女子高等学校のラーニングコモンズは、親和女子大学の協力を得て設計された大学レベルの施設で、中高としては破格のスペックを誇る。四方の壁のうち、窓を除いた3面に計7つのディスプレイを映し出すことができ、壁面は全面ホワイトボード。7つのディスプレイには同じ映像も個別の映像も映し出せる。キャスターが付いた机と椅子は可動式で、同じく可動式のホワイトボードを自由に配置して、プレゼン・ディスカッションを複数同時に展開できる。
「従来型の資料映像をただ見るだけの授業を超えて、生徒が自ら参加して、グループで話し合ったり、発表したりする授業が今まで以上にできるようになりました。ラーニングコモンズを使って中学1年生も堂々と発表したり、意見を交換したりしています。生徒たちは伸び伸び、生き生きと学んでいると感じます。」
中村校長は、ラーニングコモンズがもたらす効果に大きな手応えを感じたようだ。
身体化する現代文
実際の授業でどのように使われているのか、山科先生の説明を聞くと、手応えが大きい理由がよくわかる。
「高校の小説読解では、これまでのように小説の文章を配ることはせず、7面ディスプレイを使って小説を表示し、美術館を巡るように小説を読ませました。その後、私が人物の心情などを口頭で問いかけると、生徒たちは該当箇所に集まり、身振り手振りで人物を演じながら『こんな気持ちではないだろうか』と考え始めました。従来の授業よりも小説をはるかに身近に感じているようでした。」
この読解の試みは、小説を読む際に生徒が退屈しない工夫として始めたという。しかし、生徒が見せた反応はそれ以上で、現代文の授業に新しい可能性が開かれた。山科先生はこの授業方法を「身体化する現代文」と呼んでいる。
中学1年生が研究レベルの問いに挑む
続いて、山科先生に実際の授業を見せてもらった。中学1年生、芥川龍之介『トロッコ』の読解の授業だ。ラーニングコモンズの特性を生かし、ジグソー法で授業を進める。ジグソー法は協調学習法の一つ。学ぶ内容をいくつかのパートに分けて、それぞれのパートをグループの一員が受け持ち、パートに分かれて自身の担当部分を学ぶ(エキスパート活動)。その後、グループに戻って、それぞれのパートを教え合う(ジクソー活動)。
※ジグソー法について詳しくは「授業が変わる 学校が変わる」第4回 うまく学ぶための条件をいかした授業づくり
「動画で作品の全体像を掴んでもらい、読解にジクソー法を使うと、従来の授業では3週間かかっていた内容を2、3回の授業に凝縮できました。一通りの解説が終わると大学研究レベルの問いに挑戦します。芥川龍之介の『トロッコ』をはじめ多くの文学作品には研究者の間でも解釈が分かれる箇所があり、それを生徒にディスカッションしてもらいます。」
生徒同士が教え合うこと、正解のない問いにディスカッションしながら取り組んでいくこと、こういった学びを通じて生徒たちの学ぶ姿勢にも変化が見られた。山科先生は次のように言う。
「説明自体は教師の方が上手くできますが、教師が前に立って説明するとどうしても生徒は正解を待つ姿勢になってしまいます。ところが、生徒同士で説明し合うと、身を乗り出すようにして自らも考えようとします。学ぶ仕組みを作って生徒自身が動くようにすることがこれからの教師の重要な役割だと感じます。」
ラーニングコモンズは、従来の教室ではできなかったことの多くをできるようにした。それは「中学1年生はここまで」という根拠のない制限も取り払う。環境や仕組みの助けがあれば生徒は本来持っている自ら学ぶ力を発揮して、どんどん先に進むことができる。同校の取り組みはそんな可能性を感じさせてくれた。