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2023.3.17

[なぜ学びが変わるのか?] 第10回 続・AI時代になぜ学ぶ必要があるのか?

 

 

2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されます。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回は第5回「AI時代になぜ学ぶ必要があるのか?」で抜け落ちていた大切な視点を補足します。

 

第5回「AI時代になぜ学ぶ必要があるのか?」のおさらい

 第5回はAI時代に学ぶ意義を考えました。その時は、次のような考察を行いました。

・必要な知識や理解についてはAIがサポートしてくれる
・何かに興味を持ち、知りたい、学びたいと思えることこそが人間とAIの違い
・この違いが、これからの時代の人間の生き方のヒント

 確かに、これはこれで「AI時代に学ぶ意義」の一つです。この結論から派生して、第7回では「自分の好きなことで仕事をする枠組みを作り出す」ために学ぶ第9回では「頭脳労働・肉体労働という枠組みにとらわれずに、価値判断・評価労働というべき分野に活路を見出す」ために学ぶ、と新しい学びを将来の生き方につなげる、という視点で考察を加えました。

 ところが、この一連の考察には重要な視点が抜け落ちていました。今回は、その重要な視点について説明していきます。

 

AI化してもしなくても学ばなければならない

 ある私学の校長と、これからの学びについて話をさせてもらった時のことです。その先生はグローバル経済とそれに対する各国市民の反応などに詳しく、次のようなことを教えてくれました。

”近年、グローバルICT企業が個人情報を独占している。これには人々の行動を支配する力がある。欧米先進国では、このような監視資本主義にノーを突きつける動きも見られる。本来、テクノロジーは人々を幸せにするものだが、現状は、民主主義が脅かされている。民主主義の根幹は、批判的精神を持ち、自ら考えること。生徒が主役となり、自分で考える力と批判的精神を身につけ、将来、より良い人生を送るための学びが重要。”

 これを聞いた時、リベラルアーツ(教養)は「より良き市民」になるための学びという、アメリカの高等教育の考え方を思い出しました。AI時代に、新しい学びでどう身を立てていくのか、ばかりに目が行きがちですが、それはいわば対処療法。AI時代にこそ、学びの根幹を再認識する必要があると教えていただきました。

 私たちはこれからの社会がAI化してもしなくても学ばなければならない。民主社会の主権者として、何が正しいかの判断を下すために必要なことだからです。正しさの根拠は法律にのみあるわけではありません。生物としてのヒトが持つ限界、歴史的経緯、文化的背景、時代的要請、人間性の普遍性、などほとんど無限といっていい分野への目配りを要します。つまり「教養」を踏まえて判断することが「より良き市民」に求められるのです。

 逆に言うと、「教養」の前提がなければ、現代の資本主義は「法律に反していなければ何をしても良い」状態に陥ってしまいます。監視資本主義も法的に問題なければOK、拡大する一方の経済格差も放置して良いとなってしまいます。これは、そこに生きる人々が幸せになる社会ではありません。人々が幸せに生きる社会を考えるためにも学びが必要なのです。

 

AI時代に重みを増す「より良き市民の教養」

 この視点は、監視資本主義や経済格差のような大きな話まで行かなくても、有名人のスキャンダルを暴くことは正義なのか、政治家が世襲を繰り返すことは正しいのか、違法ではない行為をした者を「みんなが嫌っているから」という理由でリンチするようなことは許されるのか、といった、私たちの社会のより良い運営に関わる、身近な問題を考える視点でもあります。

 民主社会は、何の労力もなく、他の誰かが維持してくれるものではありません。歴史的には、人々が闘争の末に勝ち取ったものであり、第二次世界大戦前夜のドイツのように、人々がそれを放棄するようなことがあれば、簡単に壊れてしまうものでもあります。

 主権者の利益と巨大資本の利益が対立することはこれからも幾度となく起きるでしょう。どちらかが善で、どちらかが悪というような単純な対立にならない場合も多く出てくるはずです。そんな時に「法律ではこうなっているから」と思考放棄するのではなく、人々を幸せにするために常識や前例を根底からひっくり返して考えられる、本当の意味での批判的思考が必要になるでしょう。

 与えられた枠組み自体を疑って思考できるのも、もしかすると人間特有の能力かもしれません。AI時代かどうかにかかわらず身につけるべき思考力は、巡り巡って、それもまたAI時代に人間がするべき大切なことになり得そうです。

 

ミライノマナビ編集部

ミライノマナビ編集部

グローバル化&AI化が子供たちにとって明るい未来となってほしい。来るべき未来に対して教育は何ができるのか、子育て世代やこれから社会に出る若者たちみんなが考えるきっかけを提供していきます。

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